ニコンのミラーレス一眼カメラ「Z」シリーズは、大口径、ショートフランジバックのメリットを生かした高性能レンズが多いことで知られていますが、ようやく「大三元」と呼ばれるF2.8通しのズームレンズが出揃いました。標準ズーム「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」、望遠ズーム「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」に続き、今回インプレッションする超広角ズーム「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」がついにデビュー。銘レンズとして誉れ高かったニコンFマウント版の「AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED」を上回る圧倒的な写りを、このレンズは見せてくれました。

  • ニコンが10月末に販売を開始したZマウントの広角ズームレンズ「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」。実売価格は税込み315,000円前後で、在庫は潤沢だ

ニコンZマウントには、すでに超広角ズームレンズが存在します。2019年4月に発売した「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」です。沈胴方式を採用して軽量かつコンパクトで、しかも円形フィルターも装着できるなど、写りとともに操作性、携行性も優れたレンズです。しかし、「F2.8通し」の明るい超ワイドズームの登場を待ちわびる人が多かったのです。その声に応えて10月30日に満を持して登場したのがNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sというわけです。

まず特筆したい特徴は、小ささと軽さでしょう。ミラーレス一眼カメラ専用設計となったため、大幅なコンパクトさと軽量化を果たしたのです。一眼レフ用のAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDは約970gもありましたが、このレンズは約650gと劇的な軽量化を達成しています。

サイズもギュッとコンパクトになりました。「え、これで同じ焦点距離なの?」と驚いてしまうほどです。超広角ズームレンズといえば、大きく張り出す出目金のような前玉を持つイメージですが、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sは大口径非球面レンズを採用し、前面にフィルターを装着できるようになりました。風景撮影などでフィルターワークを行うフォトグラファーにとって朗報でしょう。付属のバヨネットフードを使って、レンズ先端にニコン純正の112mmネジ込み式フィルターが装着可能となっています。レンズマウント部にも、シートタイプのゼラチンフィルターを挿入できるフィルター枠も装備しています。

  • 新しく登場したZマウント用の「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」。超広角ズーム特有の前玉の出っ張りが抑えられている

  • こちらは一眼レフ用の「AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED」。大きな前玉が特徴の重量級レンズで、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sと比べるとかなり大きく重い

外観上の特徴は、鏡筒部に「情報パネル」が装備されていることでしょう。絞り値、撮影距離、被写界深度などをこのパネル表示できるようになっています。NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 SやNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sと同じスタイルですね。鏡筒の側面には、カメラボディからさまざまなファンクションを割り当てられる「L-Fnボタン」を装備しています。コントロールリングも搭載しているので、フォーカスや絞り、露出補正など自分好みに機能を設定できます。

レンズ構成はEDレンズ4枚、非球面レンズは前玉の両面非球面レンズを含む3枚4面となっています。ニコンのお家芸といえるナノクリスタルコートとアルネオコートも施されており、逆光時でもクリアでヌケ感ある写真が撮影できます。AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDで気になっていた独特のゴースト出現もなく、フレーム内に太陽など強烈な光源を入れても安定した画質を見せてくれました。軸上色収差を排除して、サジタルコマフレアも抑制しており、絞り開放からグッと絞り込んでの撮影でも、画面中央部はもとより周辺部まで均整のとれた高い描写をしてくれるレンズになっています。

「神レンズ」と評価の高かったAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDを画質で上回る、全てのニコンZユーザーにオススメしたい超広角ズームレンズとなっています。

  • 薄暮のマジックアワーでもワイド感あふれる撮影が可能です。レトロなライトにフォーカスしてあおって撮影しましたが、日没時の微妙な色合いを再現できました。カメラはZ 7IIです

  • 色づいた一本の木をワイド端で狙いました。14mmという超広角でも、不自然な印象がないカットになりました。立ち木に残る葉の1枚1枚から、芝生に積もる葉までしっかりと解像してくれました

  • テレ端の24mmで、色褪せたコキアのような植物を寄りで撮影しました。Z 7IIの4575万画素の圧倒的な画素数との解像力を実感できました。枝状の細かい部分の際立った感じ、デリケートな淡い色合いまでしっかりとキャプチャーできました

  • 公園に設置されている旅客車内をワイド端で撮りました。超広角ズームレンズの使い勝手は、このようなシーンで絶大です。ワイド感も欲しいし、立ち位置が制限される場所では微妙なズーミングによる画角調整が欲しい、というケースです。本レンズとZシリーズの組み合わせならば小型軽量で機動性も高く、さまざまな現場で撮影を遂行できるでしょう

  • 高画素機のZ 7IIとの相性は抜群だと感じます。高精細なセンサーに確実に豊かな光を導いてくれるからです。冬の公園でのシーンを捉えましたが、クリアな陽を浴びる落ち葉のハイライト部から、朽ちかけているベンチのシャドウ部まで、粘り強くトーン豊かにキャプチャーできました。ズーミングの感触もよく、使っていて心地よいですね

  • 超ワイドズームレンズは風景や建築写真で活躍しますが、スナップショット撮影でも有効に使えます。広く背景を写し込みながら日常のワンシーンを捉えられます。オートフォーカスも高速なので、とっさのシーンでも安心です。お城の前で開催されていた菊の展示を絞り込んで撮りましたが、花から城壁までクッキリと撮ることができました

  • とある喫茶店の中を撮影させてもらいました。壁と天井にギッシリと時計がある様子は異世界のようです。ライトの色味を残すため、デイライトにホワイトバランスを合わせて、チョイ絞りでZ 7IIのシャッターを切りました。歴史ある壁掛け時計や二眼レフなどが、レトロな色合いの中に浮かび上がりました

  • 銀座の歩行者天国をZ 6IIで。ワイド端を使いましたが、ヌケ感がとても気持ちがいい描写になりました。建物の壁面や路面の感じ、真っ直ぐに描写されたビルのガラス部分など、このレンズのパフォーマンスを感じ取れます。画面中央部から周辺部まで極上の写りが楽しめました