2020年にスタートするエコシステム

8月に設立した「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」では、すでにさまざまな社会課題に対してエコシステムの構築を進めている。そこで取り組まれている3つのプロジェクトを以下で紹介する。

スマートヘルスシティ

坪田氏は、「スマートヘルスシティの実現に向けた取り組みが一丁目一番地だ」と語り、ヘルスケアに関する今後の取り組みとして、府民の同意の下で、レセプト、健診データ、処方箋などさまざまな健康データを管理するサービス「大阪府版情報銀行(仮称)」の提供を開始するとの考えを示した。

  • 共同エコシステム「スマートヘルスシティ」のプロジェクト概要

パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)として健康データを管理するだけでなく、収集したビックデータをもとにAI問診などのAIを活用したサービスを展開し、府民や企業、大学向けのAPIを通じて、さまざまなデータ利活用を促すとしている。例えば、府民へ運動や食事などの健康に関するアドバイスを提供し、民間企業に対して、新医薬品や健康アプリの開発につなげるための情報提供を行うといったことだ。

「日本人の多くが子供から大人まで毎年健康診断を受けていることもあり、日本は先進国の中でも健康データをたくさん蓄えているが、そのデータは先進国の中で最も活用されていない。大阪府では、府民の行動・生活パターンにも注目して、2025年までに健康寿命を1年~2年延ばすことを目指す」(坪田氏)

続けて坪田氏は、「残念ながら役所には、健康データのような個人情報を匿名化していくノウハウが不足している。大阪府版の情報銀行サービスは、民間企業と組んで進めていく」と説明した。

高齢者にやさしいまちづくり

また、健康寿命の延伸には、医療的なサービスのみだけでなく、人とのつながりや社会生活を活発化するようなサービスも効果的であると坪田氏は考えを示した。

そこで、大阪スマートシティパートナーズフォーラムでは、大阪府が仲介となった異業種連携型のエコシステムとして、スマホやタブレットを活用した高齢者のさまざまな悩みを解決するプラットフォームを構築するとのことだ。

  • 共同エコシステム「高齢者にやさしいまちづくり」のプロジェクト概要

現在、この取り組みに参加する企業は16社集まっており、30社集まり次第、サービスを各地域で順次開始するとしている。

インバウンド・観光の再生

2019年まで年々増え続けていた大阪外国人観光客数は、新型コロナの影響により激減する見込みだ。坪田氏は、「2025年に開催される大阪・関西万博までにインバウンド・観光の再生を目指す」とし、キャッシュレスや多言語化ガイド対応に加えて、AIによる顔認証技術などを活用した感染対策ソリューションなどを展開するエコシステムを構築する。

  • 共同エコシステム「インバウンド・観光の再生」プロジェクト概要

具体的には、訪日観光客に対して空港や駅の改札で、顔認証システムによる個人情報の取得を行い、大阪府がその情報を管理することで、感染症拡大時の迅速な対応や、おもてなしの向上につなげる。坪田氏によると、現在、大阪メトロにて顔認証に対応した改札の建設を進めているという。

「中国や韓国の方は、比較的個人情報の取り扱いについて抵抗感が低い。国内の観光客に対しても段階的にサービスを展開していきたい」(坪田氏)

スーパーシティ構想

スーパーシティ構想とは、政府が策定した「住民が参画し、住民目線で、2030年頃に実現される未来社会」を目指す、スマートシティよりさらに進んだ未来都市モデル計画だ。政府は、2020年12月から2021年2、3月頃まで、先行モデルとなる自治体を公募し、21年4、5月頃にスーパーシティの区域を指定する予定。

坪田氏によると、約60の自治体がすでに立候補しており、その中で約5つの自治体が選出されるという。大阪府も大阪市と共同で立候補しているとのことだ。大阪府市が立候補している地区は、大阪万博が開催される人工島エリアの「夢洲(ゆめしま)」と、大阪駅の北側に位置し貨物列車駅の跡地である「うめきた」の2つ。

  • 共同エコシステム「スーパーシティ」のプロジェクト概要

この2つのエリアがスーパーシティに選定されるべく、さまざまな取り組み内容を開始すると坪田氏は説明した。具体的には、物流や防災、施設管理分野でのドローン活用や、ビックデータ活用による効率的な水・エネルギーの供給を行う。坪田氏は、特に議論を進めている計画の1つに、うめきたから淀川上空を通過し、夢洲エリアまで人を運ぶという「空飛ぶ車」があると紹介した。イベントの最後にVTRで登場した吉村知事は「スーパーシティの選定に必ず勝ち取っていく」とコメントを寄せた。

大阪スマートシティパートナーズフォーラムは今後も、上記プロジェクトを進めるとともに共同エコシステムを拡充し、さまざまな課題に取り組む方針だ。