コロナ禍で急速に広まったテレワークを機に、働き方が大きく見直されています。分散型の職場が増えると同時に、多様な働き方が広がりました。そして現在、企業に雇用される従業員としての働き方だけでなく、個人としての働き方の重要性に、企業も従業員も気づきはじめたのではないでしょうか?

テレワークが始まった当初は、多くの企業が「在宅勤務でも、生産性とチームワークを保ち、モチベーションを低下させないための方法」を模索していました。しかし、この問題は企業のみならず、個人にとっても重要です。そこで、異なる視点からの「従業員体験(Employee Experience)」が再び注目されています。

これまで多くの企業が、業務の効率化のためにテクノロジーを駆使し、スケールアップや自動化を進めてきました。しかし、従業員体験が置き去りにされてきたのも事実です。従業員がどのように感じるかは、顧客がどのように感じるかに直結しています。従業員のエンゲージメントを高めることは、従業員のロイヤリティの向上だけでなく、収益もアップにもつながります。

従業員の人間的な原動力が重要だからこそ、テクノロジー環境がユーザーのために設計されていることが不可欠なのでです。

テクノロジー分野における従業員体験とは?

これまでは、「顧客体験」が多くのビジネスシーンで重視されていました。テクノロジーの分野では、スマートフォンを筆頭に、数多くのアプリケーションのインタフェース設計に改良が加えられています。しかし、職場のテクノロジーはどうでしょうか?普段私たちが使用しているスマートフォンのアプリケーションほど使いやすくなっているでしょうか?

テクノロジーの観点で見れば、従業員の多くが普段から消費者としてテクノロジーに触れており、古いシステムに戻りたくないという気持ちがあるわけです。したがって、このような従業員によるテクノロジー体験こそ、消費者の利便性に反映させるべきなのです。

もっとも、従業員体験はテクノロジーだけで作られているわけではありません。この分野はITツール、ワークフローとプロセス、ビジネス環境、そして文化など4つの主要分野に広がっています。職場のツールやテクノロジーを活用し、従業員一人ひとりが日々進歩していると感じることが従業員体験の最終的な目標です。

従業員経験とは、顧客経験の取り組みで得た経験を従業員に適用することであり、従業員経験とは従業員が組織で経験した知見の集積です。従業員経験は、顧客経験と同じように設計することも時に重要です。

従業員の経験がビジネスの課題の上位に

エコノミスト インテリジェンス ユニットの最近の報告書によると、73%の企業が従業員経験を「重要」または「最優先事項」としていることがわかりました。例えば、ザッポスとサウスウエスト航空は従業員体験の向上に取り組んでいる企業として有名ですが、いずれも従業員の満足度が顧客満足度につながっていることが評価されています。

従業員文化を最適なものに設計する企業は勝利を手にすることができます。だからこそ、従業員体験が見直されているのではないでしょうか。

さらに、今日の職場にはさまざまな世代が一緒に働いています。4世代が一緒に仕事をしている中、新たな第5世代であるジェネレーションZが職場に入ってきています。新しい世代の従業員は、FacebookやInstagramのない世界で生きてきたことがありません。この新しい世代は、より良いユーザー体験を求めており、それがなければ定着しません。私たちは、他の世代のグループを疎外しないようにしながら、これらの世代の労働者を維持できる職場環境の構築が必要です。

ビジネスカルチャーの役割と重要性

「Culture eats strategy for breakfast」とは、ピーター・ドラッカーの言葉です。これは、「企業文化は戦略に勝る」という意味で、戦略がどうであれ、大切なのは従業員が何を信じ、どのような価値観を持っていて、同じ文化を共有していることが重要ということです。

そして、企業は、組織としてどこに向かっているのかを従業員に明確に伝え、規範や行動の原動力となる価値観を提示することが重要です。企業文化はテクノロジーや従業員体験は企業文化に根差したものであり、従業員の行動に価値と目的を与えるものなのです。

新型コロナウイルス感染拡大は企業文化に大きな影響を与え、企業が従業員の体験を受け入れる方法にも影響を与えました。オフィスに縛られず、オフィスをはるかに超えたところで文化をデザインするにはどうすればいいのでしょうか?そして、テクノロジーの観点からは、その文化を効果的に提供し、一貫性を持たせるためのツールをどのように活用すればよいのか、今企業は問われています。

従業員経験を測定するには

テクノロジーの利用率は、従業員が新たなデジタルワークスペースをどれだけ受け入れているかを示しますが、テクノロジーがどれだけ積極的に受け入れられているか、仕事で使用されているだけなのかということを常に把握することはできません。個人的なレベルの基準や数値は入手が困難です。

従業員経験を測定する基準と方程式は、企業によって異なりますが、大切なことはIT部門と人事部門の協力関係です。従業員のポジティブな体験を提供することに加え、それを測定する上でも重要です。企業が従業員体験で成功しているかどうかを理解するには、多くの従業員情報へのアクセスが必要であり、それによって企業のITアナリティクスを適切に理解することが可能になります。

しかし、従業員経験の測定は哲学的な問題であり、本質的に個人的なものであるため、新しい経験の測定基準が必要です。そのためには、カスタマージャーニーマッピングと同様に、従業員のジャーニーマッピングを活用してみてもよいのかもしれません。

未来の働き方

現在のテレワークは、予想もしなかったような極端なシナリオでした。オフィスの再稼働に伴い、以前のような働き方に戻ることは、難しいと思われます。だからこそ、企業は、今後も継続する働き方多様化を見据え、従業員体験の解釈や基準を拡大していく必要があります。

職場のテクノロジーは、消費者向けのテクノロジーと比べ、多くのシナリオを複雑にしすぎてしまう危険性があります。働く場所のデジタル化に向けた道のりでは、消費者の世界を反映するために、テクノロジー体験を可能な限り直感的でシンプルにすることに焦点を当てるべきです。

テクノロジーが従業員体験を向上させるためにできることはたくさんありますが、テクノロジーが主役になるわけではありません。テクノロジーはあくまで、新しいデジタルワーカーに充実した従業員体験を提供するためのツールです。

新型コロナウイルス感染拡大は、仕事に人間性を取り戻すきっかけになりました。企業は人なくして成功することはありません。今後、企業が従業員体験に注力することで、未来の仕事はより人間的なものになるでしょう 。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)


シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社
セールスエンジニアリング本部 エンタープライズSE部 部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。