ICT機器による授業展開の効率化
荒川区では小中学校ともに、タブレットPCを国数英などの主要教科のみならず、総合的な学習の時間や英語の学習によく活用している。例えば、英語の授業でスピーチ発表の際、PCで作成したスライドを活用したり、課外学習でタブレットのカメラ機能を利用して写真や動画を撮影したりしている。
授業の展開についても、タブレットPCと電子黒板を併用することで効率的に進めることができるようになった。例えば、児童生徒が自身の考えや回答を黒板に書いて発表するといった授業においては、従来では、黒板にチョークなどで書き写す時間が必要だったが、タブレットPCの画面を電子黒板に映すだけでよくなり、時間が短縮できているという。
小学校では45分、中学校では50分の授業時間と限られており、ICT機器で短縮した時間を思考や話し合い、まとめの時間などに回すことで「深い学び」につながっているという
また通常授業だけの活用だけでなく、生徒会新聞を作成するなどといった生徒会活動や、放課後補習などでもICT機器は活用されている。ほかにもテレビ会議システムを利用して、他校や海外の子どもたちとの交流を深めたりすることが出来るようになった。
タブレットの運用面でも色々と気づきがあった。荒川区の児童・生徒はタブレットPCを大事に使用していることが分かった。当初は故障の心配等を想定していたが、そのような扱いを、児童・生徒たちは行っていなかった。
「それでも不慮の事故を経て、落下防止や防塵・防水を施した強靭なタブレットPCを使用しています。電子黒板についても、荒川区では提示用として授業ではタブレットPCとセットで使っています。電子黒板とタブレットPCを使うことで、授業が円滑に進みます」とハードウェアの整備を担当する教育事業係長の村松輝将氏は語る。2014年からのこれらの機器整備のノウハウを生かし、より活用されるための機器の在り方を検討している。
一方で、荒川区が実施したアンケート調査によると、ICT機器導入によって学習への意欲は高まったという回答が多かったことが分かったが、学力の向上はあまり見られなかったという。
原田氏は、「タブレットPCの導入=学力向上とはなかなかいきません。教育ICTの優位性については、社会に順応する力というものを考えると、小さい頃からインターネット環境に当たり前に慣れることが重要だと思います。様々な情報をつかみ取って、調べ学習に活かしたり、比較検討したりすることで、個々の情報活用能力などが上がっていく」と、ICT化の効果についての見解を示した。
コロナ禍における緊急対応
荒川区ではタブレットPC導入時、校内のみでの使用を想定していたが、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、タブレットPCの持ち帰りの需要が必然的に高まるようになり、緊急対応として持ち帰り学習を認めたという。
菊池氏は、「持ち帰り学習を想定していなかったので、ネット環境やセキュリティの緊急対応で苦労しました。今後は新型コロナなどのパンデミック状況下に関わらず、持ち帰り学習を認め、進めていく考えです」と述べた。
現在では、児童生徒全員が問題なく持ち帰り学習ができる環境を構築するため、ネット環境がない家庭に対しては、ポケットWi-Fiを付与している。
「家庭環境にかかわらず、生徒みんなに対し平等に学習機会を提供していきたいです」(菊池氏)
タブレットPCの持ち帰りが可能になることで、リモート授業が行えるだけでなく、宿題の提出や保護者への連絡も電子化され効率的になるだろう。「環境整備では、MicrosoftTeamsなどのグループウェアの導入も考えながら、セキュリティ面からもトータルで一番運用しやすい形を検討していく」と村松氏は考えている。
「一度きりの補助金では足りない」
荒川区では、政府からのGIGAスクール構想の児童生徒一人あたり45,000円の補助金はタブレットPCの追加購入に充てるという。追加購入費の6億円の予算のうち、補助金1億円程度をそのタブレットPCの補填に充て、追加で2500台調達するという(2020年10,11,12月予定)。
加えて原田氏は、「一度きりの補助金では足りません。ICT支援員(情報教育アドバイザー)も今後もついていただく必要もあり、ネットワークのセキュリティもさらに高めていきたいと考えています。ハード購入時よりも運用していくことにお金がかかりますので、そういったところにも補助を入れてほしいと思います」と訴えた。
子供たちの未来のために
教育ICTの取り組みで一番苦労したことはなんですかと聞くと、「何もかもが前例がなかったので苦労しかしていない」と、三人は笑顔を見せた。
菊池氏は、「すべては荒川区にいる子供たちのためです。区と学校現場が一枚岩にならないと成し遂げることができないことだと思います。子供たちが今後のICTがますます普及する世界で生きるすべを見つけてくれれば、今苦労していることは何の問題もありません。10年後20年後の子供たちが創り上げる未来に期待したいです」と、熱く語った。