政府のGIGAスクール構想によって、PC・タブレット端末の生徒一人一台が推奨されている。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により教育のオンライン化が加速され、GIGAスクール構想の実現が前倒しになっている状況である。

東京都荒川区では、家庭の経済状況や家庭環境に関わらず「すべての子どもたちに21世紀を生き抜くための能力を身に付けさせる」ことを目標として、全国に先駆けGIGAスクール構想の7年前から1万台のタブレットPCを区内の小中学校に導入している。

  • 7年前から全小中校に一人一台PCを実現させた荒川区役所

    荒川区役所

荒川区での最初の教育のICTについての取り組みは、2013年に小学校3校、中学校1校をモデル校としたタブレットPC約1,200台の導入だ。そして、モデル事業における成果と課題を踏まえ、2014年からは区内の全34校(小学校24校、中学校10校)において約9,200台を導入し、活用時における一人1台体制を確立させている。当時の2年間で環境構築に費やした経費は約33億円にのぼり、国からの補助金などは一切なかった。

  • 導入したタブレット 富士通製品

また、荒川区の全校におけるネットワーク環境構築や、タブレットPCなどのハードの提供などは2014年から、教育ICT事業を展開する内田洋行グループが主に担っている。同グループでは、環境整備全体のプロジェクトマネジメントや個別設計、周辺機器の一部も提供、さらには、サポートのメンテナンス保守やICT支援員の派遣、先生へのICT研修なども一貫して対応している。

荒川区 教育委員会事務局 学務課長 菊池秀幸氏は、「西川区長の『パソコンを鉛筆や消しゴムと同じ感覚で使用することが必要』という考えのもと、教育ICTについてはGIGAスクール構想以前から力を入れていました。2013年に区側と議会の意見が一致し予算を付けてもらい、トップダウン式で区内の全校へタブレットPCを導入しました」と導入までの経緯を語った。

タブレットPC導入までの苦難

モデル校の導入時は、全国的に見ても教育ICTで一人一台タブレットの取り組みを行っている自治体はほぼ皆無、荒川区の取り組みは先行的なものだった。区の教育委員会だけでなく、学校の先生も一員としてプロジェクトチームを構成し、手探りで始めたという。

菊池氏は、「ICT機器に慣れていない教員の戸惑いもあり、ネットワーク関係の不具合もたくさんありました。また、全校導入になった時の費用面をどのようにクリアしていくのか議論を進めました」と、当時の課題を語った。

荒川区では、モデル校での成果や課題を踏まえて活用指針を策定、2014年の区内全校での導入より活用している。活用指針では、授業での活用方法だけでなく日頃の保管方法や、子供たちへのタブレット活用の手引きの配布・説明会の開催など、実際にやってみないと気付かなかった内容を記載している。

「教育ICTを取り組むにあたって、常勤のICT支援員がいることが先生達のサポートになり、重要です。さぁ、ICT機器が来た、これから先は自分達でやって下さいでは、絶対に活用は進まない。授業を円滑に進めるために、どんな事が授業のなかで想定されるのか、活用と授業イメージができるようになることが大切」と、荒川区教育委員会 指導室 指導主事 原田正伸氏は指摘する。

荒川区では、当時は全校導入にあたって内田洋行と同グループのウチダ人材開発センタが派遣したICT支援員に常勤してもらい、ネット環境トラブルへの迅速な対応や、教師へのICT活用へのアドバイスをもらっている。ICT支援員は、最初の2年間は常勤であったが、現在では準常勤になっている。

ICT支援員は、機器やソフトの操作だけではなく、教材づくりや授業計画を教員と一緒に行う。ICT支援員は、現場の課題にタイミングよく答えるために34校の支援員から上がってきた日報やトラブル・要望・質問などに目を通して対応するなど、それらを地道に続けてきた。

さらに、荒川区の場合は機器のヘルプデスクや障害対応・システム運用等はウチダエスコが対応し、ICT支援員と連携しながら運用面も支えてきた 。

「ICT機器を活用した授業に慣れた先生がいても、PCシステムやネットトラブルに対して迅速に対応することが難しいと思います」(原田氏)

トラブル対応だけでなく、ICT支援員の存在が教師間のICT活用についての議論を加速させ、ICTを活用した授業の質は、ICT機器導入直後よりも向上していったという。原田氏は「ベテランの教師は、指導スキルに長けています。一方ITスキルに慣れていない方もいる。逆に若手の教師は、指導スキルはまだまだ伸びる傾向ですが、反面ITスキルは長けています。双方が相互を教え合ってよりいいものを実現しようとする動きがみられました」と語った。

また、区内全校で導入している「学校間共有フォルダ」により、実践的な授業の内容、各学校での改善点や気づきなどを共有できる仕組みを構築している。区内のすべての先生にアクセス権限があり、情報がオープンで次々と集まる事で、迅速な課題解決につながっているという。

  • 「学校間共有フォルダ」