2020年2月~3月にかけて、それまでドラッグストアに行けば当たり前に買えた「マスク」が、一転して貴重品になりました。いわずもがな、それは新型コロナウイルス対策のためですが、医療従事者にさえ満足に物資が行き渡らない中、マスクが手に入らない不安を抱え過ごす日々だった…というのは、説明するまでもないですね。
当時、家電メーカーでありながら、マスク製造に乗りだしたのがシャープです。2020年4月27日に個人向けのマスクが販売開始されると、470万6,385人(第1回抽選販売)もの応募が集まりました。
あれから約半年、一時の品不足は落ち着き、ドラッグストアの店頭にもマスクが並ぶようになりました。そんな折、シャープは2020年9月に、マスクの「小さめサイズ」の製造・販売を発表して注目されています。
筆者も、現在店頭で手に入る標準サイズのマスクでは顔のサイズにあわず、シャープの製造品質で小さめマスクが追加されたことを喜んでいる一人ですが、このタイミングで取り扱いサイズを拡充したのはなぜでしょうか。
そこで、コロナ禍初期からマスクの製造・販売を行ってきたシャープの広報に、これまでの実績を含め、シャープのマスク販売の現状と今後の展望を聞いてみました。
まずは、新たにシャープのマスクのラインアップに追加された小さめサイズのマスクを見てみます。取材にあたって、サンプルをいただいて実物を確認しています。
「シャープのマスク」が一般向けに発売されたのが2020年4月、約半年が経過したこのタイミングで「小さめサイズ」を追加したのは、「かねて要望があり、より幅広い方々のニーズに対応する」ためだったといいます。
大は小を兼ねるとはいうものの、身に着けたとき顔とマスクの間に余裕があるのは不安要素。消費者ニーズを受けて発売された小さめマスクには、これまでのマスクではサイズが合わなかった人たちから好意的な反響が寄せられているそうです。
供給回復で価格も安定してきた不織布マスク
私たちの日常に帰ってきた不織布のマスク。春先のような高額ではないという実感はあるのですが、個人的には布マスクも併用してやりくりしてきたこともあり、改めて「在庫速報.com」が発表している価格推移を見てみました。2020年10月22日の1枚あたりの相場は、国産マスクで平均46円、産地問わず最安値のマスクは平均8円でした。
現在、多くの箱入りマスクが1箱50枚入りで売られていることを考えると、市場価格は400円~2,300円となります。2020年4月の最も価格が高止まりしていた日(4月13日)の数値で同じ計算をすると、当時の市場相場は2,750~4,000円でした。
そして、シャープのマスクはというと、サイズ問わず同額で2,980円(税別、50枚入り)。市場からマスクが消えた時期としては底値に近いものの、供給が回復した今となっては少々割高感があるのは否めません。通販限定のため、全国一律で660円の送料が追加されると総額が約4,000円です。状況が急変したので致し方ない面はありますが、2020年10月の状況においては、プレミアム価格帯の商品と言えそうです。
通販限定のシャープのマスク、今後変更はありえる?
小さめマスクも、これまで同様、直販サイト「SHARP COCORO LIFE」の抽選販売で提供されています。初回抽選の応募者は127,187人。発売当初の470万人という数字と比べれば少なく感じますが、単なる通販ではなく、抽選というハードルがあるなかでこの数字はかなりのものです。
しかも、小さめマスクは、生産立ち上げが順調に進んだこともあり、予定販売数量の5,000箱から10,000箱へと増量されました。通常サイズは抽選1回あたり87,000箱を販売しています。小さめサイズのマスクについても、「需給動向を見つつ、製造・販売数量を検討していく」とのことでした。
先述の通り、2020年3月~4月ごろと比べると、マスクの品不足は落ち着いてきました。シャープ広報としても「過熱感は緩和された」と認識する一方、「弊社製品に対する底堅い需要は続いている」と、抽選応募数に手ごたえを感じているようです。
発売当初はマスクの転売が社会問題になっており、シャープが採った抽選販売という方法は公平感のあるものでした。ですが、「過去に登録した人を含むすべての応募者」に対して自動で再抽選をかける仕組みになっているので、回を追うごとに抽選参加人数はどんどん多くなります。
10月23日段階で、ふつうサイズは総数9,061,247人の中から、87,000箱の当選者を選出しています。一方、新製品の小さめサイズは、10月23日現在、184,085人の中から、10,000箱分の当選者を選出しています。過去にふつうサイズに応募し、また当選していても、小さめサイズの抽選に参加することは可能。毎週火曜に応募を締め切って水曜に抽選、木曜にかけて当選通知を発送し、翌週月曜までに注文するか購入権を見送るかを選ぶ……という流れで販売されています。
ふつうサイズの応募数
第1~10回 | 8,449,896人 ※累計 |
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第11~20回 | 478,856人 ※累計 |
第21回 | 41,345人 |
第22回 | 22,948人 |
第23回 | 22,214人 |
第24回 | 17,843人 |
第25回 | 15,732人 |
第26回 | 12,413人 |
応募総数 | 9,061,247人 |
小さめサイズの応募数
第22回 | 127,187人 |
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第23回 | 20,185人 |
第24回 | 14,864人 |
第25回 | 12,207人 |
第26回 | 9,642人 |
応募総数 | 184,085人 |
SNSでは「まだ当たらない」など、シャープのマスクを手にできないもどかしさを伝える声も散見されます。今後、販売方式の変更、たとえば量販店での展開は検討されているか聞くと、「現時点では未定」としながらも、「お客様の意見も踏まえつつ、より良い販売方法を今後も考えていきたい」と、情勢に応じた方法を模索している様子が見受けられました。
シャープならではの「ヘルスケア機器・サービス」を
マスク不足真っ只中に行われた取材でも語られたように、シャープはマスク製造を「企業としての社会貢献」と捉えて取り組んでいます。4月1日にシャープの戴正呉会長兼社長が配信した従業員向けメッセージで、「長期にわたって継続できる事業になるものと考えている」とコメントしていることから、社会問題への緊急対応ではなく、長い期間かけて定番商品として売られることになりそうです。
その上で、マスク製造はいつごろまで、どの程度の規模で継続するかたずねたところ、「当面は現在の生産量をベースとした数量で推進していく予定」とのこと。国内ではある程度落ち着いたマスクへの需要ですが、同社のマスクを指名買いする人に向け、一定量を販売していくようです。
また、シャープは今後、マスクをはじめとした「健康・医療・介護事業」をターゲット分野のひとつとして注力していくことを、2020年9月に発表しています。「これまで培った技術を活用し、シャープならではの『ヘルスケア機器やサービス』を次々に展開していきたいと考えています」とのこと。2020年9月に発表されたプラズマクラスター技術に関する研究成果も、「シャープならでは」のアプローチのひとつでしょう。
マスクの製造販売にとどまらず、健康領域に積極的な姿勢を見せ始めたシャープ。コロナ前後で一変した生活様式にフィットするような、“シャープならでは”の製品提案にも期待したいところです。