10月13日(現地時間)、Appleがスペシャルイベントを開催し、iPhone 12シリーズなどを発表した。例年と比べて約1カ月遅れとなったiPhoneシリーズの発表だが、iPhoneだけでなく、HomePodの新モデルを追加するなど、意欲的な内容となった。

  • 10月13日(現地時間)に開催されたAppleスペシャルイベント「Hi, Speed」

    10月13日(現地時間)に開催されたAppleスペシャルイベント「Hi, Speed」

例年はリアルタイムで行われるスペシャルイベントだが、今年は事前に撮影した動画を配信する形で行われた。そのため、場面転換などの演出がふんだんに盛り込まれ、まるでプロモーションビデオのような仕上がりとなっている。そのためか今回は発表と同時に英語の字幕が付いており、また発表後に公開されるビデオにも日本語をはじめ6カ国の字幕が付くなど、かなり入念に準備されていた感が強い。

  • 動画の左下にあるキャプションボタン(吹き出しの形)をクリックすると字幕の選択ができる

今回の発表でiPhoneが登場するのはほぼ確定路線だったが、冒頭で発表されたのはスマートスピーカー「HomePod」の新モデル「HomePod mini」だった。2018年に登場したHomePodはスピーカーとしては非常に優秀なのだが、価格が3万円台と高価なことや、音声アシスタント「Siri」がライバルのGoogleアシスタントやAmazon Alexaと比べるとやや見劣りすることもあって、販売面ではかなり苦戦していた。

しかしHomePod miniでは、価格が99ドル(日本での販売価格は10,800円)と購入しやすくなり、またSiriも当時と比べると認識率などが進化していることから、本気で市場での浸透を狙ってきたモデルと言えるだろう。

デザインは、HomePodと同様のメッシュ地の外装を纏ったボール状で、切り落とされた上部にはTouchサーフェイスが鎮座する。直径が97.9mm、高さは84.3mmということで、ちょうどGoogle Nest miniを2つ重ねたのとほぼ同等のサイズだ(偶然か、価格もほぼ2台ぶんだ)。

  • Appleのウェブサイトに用意されているARモデルを使ってNest miniと並べてみた。サイズ感としてはリンゴや梨、グレープフルーツなどを想起するといいだろう

内部にはフルレンジスピーカーとパッシブラジエーターが1基ずつ搭載されているほか、マイクが4基搭載されている。HomePodでは直径10cmのスピーカーと2基のパッシブラジエーター、それに7基ものアンプ付きツイーターと6つのマイク、カスタムアンプ付きのウーファーが搭載されていたが、このサイズと価格を実現するために、かなりシンプルな構造になったようだ。単体では360度無指向性のサウンドとなるが、2台をセットにしてステレオ再生できる点はHomePodと同等だ。

HomePodでは内蔵マイクを使って部屋中に響いた音を広い、広い領域で最適な音になるようにツイーターなどを制御していたが、HomePod miniでは「Computational Audio」と銘打って、再生中の音楽を解析し、最適な挙動になるよう、スピーカーとパッシブラジエーターの動きを制御しているという。

  • Appleの発表会で「Computational Audio」という単語が登場したのは、筆者の記憶の範囲ではこれが初めてだと思われる

心臓部にはApple Watch Series 5と同じ「Apple S5」チップを搭載。オリジナルのHomePodはApple A8を搭載していた。ちなみにS5はS1から比べて最大5.1倍高速化されている(S2で50%、S3で70%、S4で2倍高速化。S4とS5はほぼ同性能)のだが、S1自体がA5と同等とされていた。A8はA5の最大5倍高速という触れ込み(A6で2倍、A7で2倍、A8で25%高速化)だったので、S5とA8はほぼ同等の性能と言っていいだろう。S5を採用したのは、ネットワーク周りなどの機能がワンチップにまとまって省電力向きの設計であると同時に、Apple Watch SEと共用することでコストダウンも目指していると思われる。

HomePod miniで追加された新機能としては「インターコム」(内線)がある。これはHomePodを複数設置してある場合、それぞれを使って内線電話的に音声のメッセージを送れる機能で、特定の部屋だけに送信することも、一斉通知することもできる。Google Homeでいうところの「ブロードキャスト」と概ね同等の機能だ(ブロードキャストは今の所、特定のスピーカーだけにメッセージを送る機能は英語版のみの提供)。ちなみに、旧モデルのHomePodでも使えるようだ。

無線周りの目新しい機能としては「Thread」をサポートしている。これはGoogle傘下のNest Labが提唱した2.4GHz帯(IEEE802.15.4準拠)を使って機器同士のメッシュネットワークを構築するIoT向けの通信規格で、Appleも2019年にGoogle、Amazon、Zigbeeアライアンスらと、スマートホーム機器の相互接続性向上を目指す「Connected Home over IP」ワーキンググループを結成していた。HomePod miniはその具体的な第一弾製品ということになるだろう。

今回の発表ではかなりスマートホームの制御ができることをアピールしており、ライバルと比べるとやや立ち遅れた感のあるスマートホーム市場での巻き返しも狙っていきたいのだろう。

  • 今回の発表のためだけ、というわけではないだろうが、わざわざ二階建てのセットを使ってスマートホーム利用をアピール。ところでこのセット、もしかしてApple社内にあるのだろうか?

またiPhone 11シリーズと同様の「U1」UWBチップを搭載しており、近くにあるU1搭載iPhoneを高精度で認識し、近づけたiPhoneをリモコン的に使えるようになる。年末までにこの機能が提供される予定とのことだ。

一方で、Wi-FiはWi-Fi 4(IEEE802.11n)止まりなのが残念だ。これがWi-Fi 5以上であれば、Mu-MIMOをサポートすることで、Wi-Fiルーターのアンテナを同時に複数台が並列で利用できる(MU-MIMOをサポートしていない機器は一度にアンテナセット全てを占有してしまう)ので、ネットワークの利用効率が高まったのだが…。

全体として、コンパクトなサイズで単なる廉価版かと思いきや、実用面も抜かりなくアップグレードされている。オリジナルのHomePodとは設計思想からだいぶ異なるようではあるが、かなり力が入ったモデルだと思わされた。実際の音をはやく聴いてみたいと思わせる一台だ。