パナソニックは2020年5月から、「大切な人に届けたいモノづくり」をコンセプトとした電子工作のレシピを一般公開する「D+IO(ドゥーイングアイオー)」というプロジェクトを立ち上げています。

電子工作と聞くと難しいイメージがありますが、2020年9月に公開されたレシピは「小動物ヘルスケアデバイス」。作ったデバイスをケージに設置することで、ハムスターや小鳥などの体重や活動量、巣穴から出てきた回数などを計測・集計できるガジェットが作れます。

犬猫用のIoTヘルスケア製品は数多くありますが、ハムスターや小鳥といった小動物用はなかなか見かけません。そこでメディア向けの体験会に参加、さっそくレシピを見て作ってみた……といいたいところですが、筆者は電子工作初心者なので少々不安。レシピ作成スタッフにサポートしてもらう気満々です。

  • 現場にあった「小動物ヘルスケアデバイス」を設置したハムスター用ケージの見本。ちゃんと本物のハムスターも生活していました

3つの計測器を作る。活動量計など実用的なデバイスなのがうれしい

小動物ヘルスケアデバイス用に公開された計測デバイス、全部で5種類あります。今回は1時間ほどで作れるであろう行程をスタッフに考えてもらい、最終的に以下三つのセンサーを作ることにしました。

  • 寝床に出入りした回数を計測するセンサー
  • 回し車の回転回数を計測するセンサー
  • 温度と湿度を計測するセンサー

ほかにも、ゆがみセンサーを利用した体重計や、赤外線センサーによる活動時間計測センサーのレシピも用意されています。どれも小動物の健康のためにあるとうれしい機能ばかり。「とりあえず遊びで作る」のではなく、実用的なデバイスなのはかなり高ポイントです。

【動画】本物のハムスターは昼寝中だったので、オモチャのハムスターに回し車を使ってもらいました、きちんとセンサーが働いているのがわかります

  • 見本として置いていたケージでは、コの字型をした箱状スペースの下に重量センサーを設置。ハムスターが乗るたびに体重をチェックし、体重の推移をグラフ表示することもできるようです。体重が急に減ったら病院に連れて行けますし、これは絶対便利なヤツ!

最初にD+IOの小動物ヘルスケアデバイスレシピページを開きます。部品リストや配線図、組み立て手順、ソースコード、使い方などは、世界的なソースコード開発・共有サービス「GitHub(https://github.com/)」に公開されています。もちろん閲覧は無料。登録などの手続きもいりません。

GitHubの「小動物ヘルスケアデバイス」にある、「小動物ヘルスケアデバイスの作り方」-「準備」に必要なパーツの一覧と、パーツが買えるページへのリンクが用意されています。D+IOのレシピは市販の一般的な電子部品を使うのが特徴なのですが、筆者のような電子工作の初心者にとっては、部品と購入先に悩まないでよいのはありがたいです。

  • リストから必要なものを選んで購入します。購入できるサイトへのリンクがあるので安心ですね

  • 今回は、会場にあったパーツから必要なものをお借りしました。体重計と活動計は作らないので、リストにある「M5Stack用重さユニット (HX711)」など一部パーツは省略しています

組み立ては簡単! 最適な設置方法を考えるほうが難しい

実際に組み立てを始めると、これが予想以上に簡単。基本的にはサイトに掲載されている写真のようにコードを組み合わせるだけ。電子工作というと、半田ゴテやらラジオペンチで細かな作業が必要というイメージがありましたが、とくに苦労することなく組み立てられました。

  • 基本はサイトの説明通りにコードをつなげていくだけ。つなげる場所を間違えても、やり直せるので不安なし

  • マイコンに接続するために、ハサミで単線ワイヤーの皮膜(絶縁ゴム部分)を1cm剥く作業。今回、唯一の電子工作っぽい作業だったかもしれません

むしろ大きく時間をとられたのは、意外にも「ケージにどのパーツをどう設置するか」というところ。相手がハムスターの場合、いかにハムスターにコードをかじられないように設置するか……これがカギになりそうです。今回は温度・湿度センサーのコードは天井に這わせましたが、天井まで懸垂できるハムスターを飼っている場合は、コードを保護する方法を考える必要があります。

  • 筆者用に用意されたケージに、液晶モニター搭載のマイコンを両面テープでくっつけました。このマイコンに各種センサーをコードで接続します。見本のケージとは形や素材がかなり違うので、配線経路をどうするかで悩みます

  • 巣に出入りした回数を計測するセンサーは、かじられないように透明アクリルの筒に入れてケージ内にセット。このあたりはケージの大きさや素材でいろいろと工夫できそうです

  • スタッフが作った見本用のケージも、現在の形に落ち着くまではたくさんのコードをかじられたそうです。かじられたコードも残っていました

あとはもう一息。サイトの説明に従ってUSBドライバやファームウェアなどをインストールし、個別の設定を書き込んだデータをマイコンに送るだけです。今回はケージに装着した液晶画面に計測結果を表示させるだけの設定にしましたが、Wi-Fiを使って計測結果をTwitterに投稿することもできます。

  • 液晶画面に各センサーからのデータが表示されれば完成! とくに苦労することもなく1時間ちょっとで完成しました。美しく配線できなかったことに悔しい思いはありますが、できあがったことは素直にうれしい!

自作デバイスだからカスタマイズも自由自在!

小動物ヘルスケアデバイスを実際に作ってみて感じたのは、モノを作る楽しさ。ただの部品が自分の手でガジェットとして完成し、動き出すのを見ると感動です。また、自分で作ることで構造がわかり、カスタマイズができるのも自作の良いところ。

今回はハムスター用のガジェットを作りましたが、たとえば温度・湿度計ならどんな動物にも利用できます。同じレシピで鳥用ブランコに重量計をセットし、インコの健康ケアデバイスに改造したというスタッフも。

ちなみに、D+IOで公開されたレシピで製作したデバイスは、10月3日~4日に東京ビッグサイトで開催の「Maker Faire Tokyo 2020」にて展示予定だそう。D+IOのサイトには、作り方をていねいに説明する動画コンテンツもあるので、一度のぞいてみてはいかがでしょうか?

余談ですが、今回作ったデバイスには、パナソニックの製品はひとつも使っていません。この電子工作レシピを配信するD+IOという活動は、パナソニックの若手デザイナーの精鋭を集めた「FUTURE LIFE FACTORY」というデザインスタジオによるプロジェクト。FUTURE LIFE FACTORYは「豊かさとは何か」を考え、それを形にすることを目的としています。

2020年はコロナ禍によってマスクや消毒液などさまざまなモノが入手困難になりましたが、そんな中で普段は裁縫をしない人がマスクを手作りしたり、作ったマスクをプレゼントしたりといった工夫で乗り切りました。そのような背景もあって、FUTURE LIFE FACTORYでは、作る楽しみや作ったものを送る喜びを感じられるD+IOというプロジェクトを発足したそうです。