東芝映像ソリューションは11月14日、8Kテレビ向けの映像エンジン「次世代8Kレグザエンジン」の開発を発表。開発中の「8Kレグザエンジン」を組み込み、88V型8Kパネルを採用した有機ELディスプレイの試作機を公開しました。この試作機は、11月17日(日)まで東京・渋谷で開かれている、タイムラプス/ハイパーラプスクリエイター・清水大輔氏の個展「そこにある光」で展示されており、一般の来場者も実際に視聴できます。会場にお邪魔して、その圧倒的な画質の高さを体感してきました。

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    8Kレグザエンジンを搭載した、88V型8K有機ELディスプレイ(試作品)。清水大輔氏の個展会場に設置されています

会場で展示されている8Kレグザの試作機には、LGディスプレイ製の88V型8K有機ELパネルと、新開発の8Kレグザエンジンを搭載。この試作機で、清水大輔氏によって撮られた福島など国内の風景の8K解像度タイムラプス作品を見ることができます。

8Kレグザの試作機が見られる個展の会場には、4K有機ELレグザPro「X930シリーズ」も4台設置され、福島や小笠原諸島などの風景を捉えた高精細タイムラプス映像を鑑賞できます。

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    4K有機ELレグザProを使った、4K映像の展示

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    計4台のレグザProが置かれています

会場は、渋谷にある「tokyoarts gallery」(東京都渋谷区東2-23-8)。入場は無料で、一般公開は16日が12時~20時、17日が12時~18時となっています。電車で向かう場合、JR渋谷駅 新南口、または地下鉄渋谷駅「C2」出口(商業施設「渋谷ストリーム」方面)を出て、明治通り(都道305号線)を南側の恵比寿方面に10分ほど歩いたところにあります。

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    会場は、東京・渋谷の「tokyoarts gallery」

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    地下鉄渋谷駅からは「C2」出口が一番近道です

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    商業施設「渋谷ストリーム」の脇の出口から出ます

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    明治通り(都道305号線)を南側の恵比寿方面に10分ほど歩いて、少しカーブに差し掛かったあたりに「tokyoarts gallery」があります

「次世代8Kレグザエンジン」とは?

8Kレグザエンジン「8K REGZA ENGINE PROFESSIONAL」は、高精細な8K解像度のコンテンツを8K有機ELや8K液晶などの8K対応機器で再生するために開発された、新たな映像処理システムです。

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    88V型8K有機ELパネルと、新開発の8Kレグザエンジンを搭載した試作機

8Kレグザエンジンは、8K映像の圧倒的な精細感とリアリティーを追求し、「レグザ史上頂点の高画質」を目指すために、チップなどのハードウェア、処理用のソフトウェアまで、従来の映像処理システムからすべてを一新。東芝レグザ製品で培ってきた、さまざまな技術を投入しています。

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    8Kレグザエンジンの試作基板

高精細な8Kコンテンツにおいても、HEVCコーデックによる圧縮や、動く被写体などによるフォーカス感の低下が起こります。これを回避して、8Kならではの奥行き感、立体感、実物感を再現するために、新エンジンには2回の再構成処理によって映像のフォーカス感を精細に復元する8K超解像技術「8Kフォーカス復元」機能を搭載。また、8K補間フレームを生成して倍速表示を行い、表示ぼやけを抑制する「8K倍速ドライブ」も備えています。

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    8K有機EL試作モデルの開発の様子

さらに特徴的なのが、この新エンジンは、クラウド(専用サーバー)に接続することで高画質処理を行う仕組みを備えていること。番組ごとの画質を解析した情報をクラウド上で構築しておき、それぞれの番組に適した映像解析情報(パラメーター)を8Kレグザが受け取って、テレビの自動画質調整にクラウド上のパラメーターを加味した高画質処理を行う技術です。

具体的な仕組みなどについてはまだ教えてもらえませんでしたが、たとえば ホラー映画などの暗い映像や、華やかなミュージカルシーンのある映画など、様々なコンテンツに合わせたパラメーターを、クラウド側であらかじめ持っておくとのこと。そして映画が8Kレグザで再生されたときに、8Kレグザエンジンがそれぞれの映像に合ったパラメーターをネットワーク経由で入手し、高画質処理に生かす……という流れになるとのこと。

既存のレグザ製品で展開しているクラウドサービス「みるコレ」(番組検索・録画機能)で培ったクラウド技術を、8Kレグザでは高画質処理にも生かしていく、ということのようです。

そして、8Kレグザエンジンの開発で培われた技術は、今後開発する4Kテレビ向けの4Kエンジン高画質処理にも応用していくとのこと。4Kレグザユーザーである筆者としては、「既存の4Kレグザにもファームウェアアップデートなどで実装して欲しい……」と、つい期待を寄せてしまいます。

8Kで日本の風景の美しさを観た

8Kレグザエンジンの開発発表は、タイムラプス/ハイパーラプスクリエイターの清水大輔さんの個展「そこにある光」のオープニングに合わせて、東京・渋谷の「tokyoarts gallery」で11月14日に行われました。

映像業界に詳しい人なら「なぜInter BEE 2019の会場ではなく、渋谷のギャラリーで発表したのか?」と不思議に思うかもしれませんが、今回はレグザの店頭用デモ映像も手がける清水さんの個展開催と、東芝の新エンジンを発表するタイミングを合わせた、という経緯があるそうです(Inter BEE:国際放送機器展は幕張メッセで11月13〜15日開催、会期終了)。

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    清水大輔さんの個展「そこにある光」の作品を8Kレグザ試作機で観ることができます

「日本初のタイムラプス ハイパーラプス専門クリエイター」という肩書きを持つ清水さんは、かつて液晶パネルのバックライト(CCFL)の設計などに携わっていたこともあるそうですが、東日本大震災で被災した故郷・福島の今を世界に発信するために、2012年からタイムラプス制作を開始。現在はフリーランスのタイムラプス、ハイパーラプス専門クリエイターとして各国で活動し、YouTubeやVimeoで映像作品を公開。自然や星空の映像作品を中心に、「その地に住んでいる人に喜んでもらう」という視点で、世界各地の魅力を伝える作品を次々と発信しています。NHKのBS8K放送でも、清水さんのタイムラプス映像を観ることができるそうです。

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    清水大輔氏のプロフィール

「そこにある光」展開催に寄せて(清水大輔氏)

朝、昼、夜。私の地元の福島を中心に、日本各地で撮影した映像作品です。

私はそれぞれの土地で、そこに暮らす人に喜んでもらえるかどうかという視点で常にポイントや構図を考え撮影を行います。また、擬似的な誰かを想像しながら撮影することもあります。

今回、そのような想いで撮影した映像を、「4つの光」をテーマとして作品にしました。

鮮明でわかりやすい星の動き。美しくダイナミックに変化する自然風景。
何気なく見ていた街や風景の中に、今まで気づかなかった光が見えてくる、タイムラプス・ハイパーラプスならではの魅力をお楽しみください。

会場では、有機ELレグザProで作品を上映します。圧倒的な美しさをご体験ください。

清水大輔

清水さんの作品では、一定間隔で撮影した数万枚もの写真をつないで動画として見せる、「タイムラプス」という手法が使われています。タイムラプス映像の制作のために、清水さんは撮影機材に相当こだわりを持っており、「天の川の星々をRAWでキレイに撮れるカメラが必要でした。広角で明るいレンズが好きです」と笑いながら話してくれました。

個展で展示している作品では、ニコンの一眼レフ上位機種「D850」を使用しています。D850に高画質な単焦点レンズを組み合わせて、福島をはじめとする日本各地の風景を撮影。撮りためた膨大な静止画を、アドビの映像ソフト「AfterEffects」に取り込んでネイティブ8Kの映像として出力しました。

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    街並みと夜の空をタイムラプス撮影した作品。夜空と都市の光の奔流が高精細な映像で楽しめます

風景撮影では、同じ天候や条件で撮れることは二度となく、ある意味で“一発勝負”です。その撮影で失敗しないためにも事前に画角や絵作りを計算し、レンズに光が入ることで発生してしまうフレアやゴーストなどの影響も考慮しているとのこと。また、撮影データが一枚でも欠けたり、連続撮影で止まったりしないよう、東芝EXCERIA(エクセリア)ブランドの大容量SDカードを2枚、D850に装着しているそうです。「(8Kの高精細な映像では)撮影時の粗が出ないように気を遣います。ごまかしは一切ききません」と清水さんは話します。

撮影後の映像処理では、撮影時のブレや映像のブレ感を抑えるためにトリミングを行ったり、映り込んだ鳥や虫などを消すといったレタッチ作業を行うこともあるとのこと。AfterEffectsで出力された映像を8Kレグザで観たときに、青い空などの滑らかなグラデーションの箇所に現れやすい濃淡の縞(バンディング)が出ていないかを東芝の技術者と共にチェックするなど、タイムラプス制作には相当な手間と時間がかかっているそうです。

そうして仕上げられた清水さんの8Kタイムラプス作品は、8Kレグザの表現力の高さと相まって、山あいの陰の繊細な暗部表現や、都市の緻密な描写など、見事な映像に仕上がっていました。特に、空いっぱいにかかる天の川や、人工衛星や飛行機の光が飛び交う星空の奥行き感や実在感の高さ、美しさは言葉に尽くせません。

今回展示されている8Kレグザは試作機であり、市場投入の時期や価格などについては明らかにされていません。国内で8Kレグザの映像を実際に見られる貴重な機会といえるでしょう。会期は11月16日時点で残り2日となりましたが、ぜひ実際の展示を鑑賞することをオススメします。

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