山形大学の坂井正人 教授らの研究グループは11月15日、南米ペルーのナスカ台地とその周辺部で新たに人や動物などの具象的な地上絵142点を発見したこと、ならび日本IBMと共同でAIを活用することで新発見の142点とは異なる地上絵1点を発見したと発表した。

ナスカ台地の地上絵は、1994年にユネスコの世界文化遺産に指定されたものの、その当時確認されていた動物や植物などの具象的な地上絵は30点程度で、その後、山形大学の踏査によって、2015年までに新たに40点以上の具象的な地上絵が発見されていた。しかし、地上絵の分布調査は未だ不十分であり、ナスカ市街地の拡大に伴い、地上絵の破壊が進むなど、社会問題となっており、地上絵の保護に向けた分布状況の正確な把握が課題となっていた。

今回、研究グループでは、航空レーザー測量などによって得られた、ナスカ台地全域に関する高解像度の画像分析と現地調査によって、主にナスカ台地西部に分布する複数の小道に沿って、具象的な地上絵が集中的に描かれたという仮説を立て、実際に現地調査を実施。その結果、人や動物などの地上絵を新たに142点発見することに成功したという。

発見された地上絵は、人間のほか、動物(鳥、猿、魚、蛇、キツネ、ネコ科動物、ラクダ科動物など)がほとんどで、地表に広がる黒い石を除去して、下に広がる白い砂の面を露出することによって制作されていることが確認された。また、これらの地上絵は、線状に石を除去して制作されたタイプのものと、面状に石を除去して制作されたタイプのものに分かれていることも確認。前者は規模が大きいものとなり、全長50mを超すものばかりだという。一方の後者は全長50m以下の小さいものが該当したという。

もっとも大きな地上絵は全長100m以上、もっとも小さな地上絵は全長5mほどで、大型の地上絵はナスカ前期(紀元100~500年)、小型の地上絵はナスカ早期(紀元前100~紀元100年ころ)に制作されたと考えられ、大型の地上絵は、儀礼場として、土器の破壊儀礼が行われたことを現地調査で確認したほか、小型の地上絵は小道沿いや山の斜面に描かれていたことから、移動する際の道しるべとして利用されたのではないかと研究グループでは説明している。

また、今回はIBM Watson Machine Learning Community Edition(旧IBM PowerAI)を用いて、山形大が保有するデータの一部の分析を実施。具象的な地上絵の候補を複数得ることに成功。実際に有望な地点を研究グループが現地調査したところ、地上絵1枚を発見することに成功したという。

この地上絵は全長5mほどの小型のもので、2本足で立っている人型であり、ナスカ早期に制作された一種の道しるべであった可能性が高いという。

なお、山形大と日本IBMは今回の成果を踏まえ、IBMワトソン研究所と共同研究を実施するために2年間の学術協定を締結したとするほか、今後、山形大が過去10年間の現地調査で得てきた膨大なデータを「IBM PAIRS」上で整理し、AIによる分析を予備調査として実施、現地調査とあわせて、地上絵の分布図作成を進めていく予定としている。

さらに、分布図が完成された後は、世界遺産であるナスかの地上絵の保護活動をペルー文化省と協力して、進めていくとするほか、地上絵の分布状況や、それが利用された年代の詳細を把握することで、地上絵を制作・利用した人たちの世界観に迫ることができるようになるのではないかとしている。

  • ナスカの地上絵

    IBM Watson Machine Learning Community Editionによって発見された地上絵