「死にたい」「家 帰りたくない」などの検索ワードを通じて、SOSを求める10代の子どもたちが集まるサイトがある。認定NPO法人3keys(スリーキーズ)が運営する、10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」だ。このサイトには頼れる大人が周りにいない子どもたちが相談できる、全国の民間・行政機関の支援団体が200件以上掲載されている。
「2009年から、虐待で保護される子どもたちの支援にかかわってきました。虐待を受けていることを相談できる環境になく、警察がかかわったり、虐待が始まってから数年経って施設に入ったり…そんな子たちを数多く見てきたこともあり、子ども本人が困ったときに発信できる環境を作らなければとの思いで、Mexを立ち上げました。サイトへのアクセスは、放課後17時頃から集中し、21時頃からグッと伸びます。市区役所などの公共の相談窓口はあっても、学校や部活が終わる時間帯には閉まっていて、子どもたちは利用できません。Mexでは面談ではなく、電話やメール、匿名など、子どもが利用しやすい相談方法を取っている支援団体も数多く掲載しています」
こう語るのは「すべての子どもたちにセーフティネットを」とのコンセプトを掲げた認定NPO法人 3keys(スリーキーズ)で代表理事を務める森山誉恵(もりやま たかえ)氏だ。森山氏にMexの運営や目指す世界について聞いた。
子ども向けコラムが検索でヒット。助けを求める子との接点に
2016年にMexがオープンした当時、コンテンツは支援団体の情報だけだった。支援団体につながった割合は、全訪問者の3~5%で推移しているという。子どもたちにとって、支援団体にコンタクトを取ることは、大人が想像する以上にハードルが高いという。
「相談していいんだろうか…と悩む子どもも多いです。『こういう相談をしてごめんなさい』『こんな相談をしていいのか不安』などの声を聞くこともありますし、何を相談していいかわからない子もいます。たとえば、虐待を受けているにもかかわらず、何が虐待なのかわかっていない子も。そんな現状があるので、子どもが相談しやすくなればと思い、Mexでは2017年からコラムも掲載するようになりました。SEO対策の一環として、子どもが悩みを検索したときにMexに辿り着きやすくなれば、という思いもありました」(森山氏)
スマホやアルバイト、病気…サイトにはさまざまなテーマのコラムが「よみもの」として並ぶ。主な寄稿者は専門家やNPOだ。森山氏ら3keysのメンバーが編集を担当し、子ども向けの平易な表現に直したり、つらい思いをしている子どもをさらに傷つける可能性のある「親に相談しましょう」等の助言を修正したりしている。
2016年に東京版としてオープンしたMexは、初年度のUU(ユニークユーザー数)が5.3万人。全国版となった翌年2017年度は14.2万人、2018年度は28.9万人と顕著な伸びを見せている。UU数増加に比例して、掲載中の支援団体へのコンタクト数も増加し、子どもたちにとってなくてはならない場になっていると言えるだろう。
ネットに子ども向けの記事は少ないため、本格的なSEO対策をしていなくても、「死にたい」や性、妊娠などの検索ワードで、Mexのコラムがヒットしやすいという。検索からの流入は全体の80%超で、うちオーガニックは70%、広告は15%程度と、コラムを掲載し始めたことが、困っている子どもたちとMexとの接点になっているのは明らかだ。
「広告はTwitter社と連携していたり、Google社から無料枠をいただいています。Twitterではインタレストターゲティング広告を運用し、『死にたい』などといった内容を頻繁にツイートしている子に向けて、Mexの広告を見せています。Googleは検索連動型広告です。広告はやればやるほど効果はあり、Mexを知ってほしい層にアプローチできている実感があります」(森山氏)
200万人の10代が利用するサイトを目指して
UUの男女比率は同じくらいで、コラムを読むのは男の子が、支援団体に相談に至るのは女の子が多いという。最も多い層は16~19歳の約70%で、以降は20歳以上、10~15歳と続く。全体的には貧困家庭やひとり親の子ども、虐待を受けている子どもが多いが、裕福な家庭に生まれながらも教育虐待を受けていたり、親子関係に悩んでいたりと、精神的な苦しみを抱える子どももいる。
「中高生の4~5人にひとりが、周囲に相談できる人がいない、とのデータもあります。Mexが対象としているのは主に10代…小学校高学年から20歳くらいの子たちです。彼らの人口は約1000万人なので、うち1/5程度の200万人くらいがMexを必要としていると考えています。まずは200万人が利用するサービスになること、さらには相談窓口につながることが私たちの直近の目標です」(森山氏)
訪問者が自分に悩み合う支援団体にアクセスしやすくなるよう、Mexは2019年6月、サイトリニューアルを行った。見直したもののひとつはカテゴリだ。たとえば「虐待」というカテゴリを設けても、子どもたちはそれを選択しづらい。今自分が受けているのは虐待なのか、虐待とは何なのかわかっていない子どももいる。
「たとえば、“暴言・無視・ひいき”など直感的に選べる表記を心がけました。虐待を受けているけれど、それが虐待だとは認識していない子どもが、自分に思い当たるカテゴリを選択すると、虐待の相談窓口に辿り着くことができます。大人と子どもは使う言葉が違うこと、平易な言葉に噛み砕くことを意識しています」(森山氏)
さらに、絞り込み機能には「電話したい」「電話したい(通話料無料)」「メールしたい」「交流したい」「泊まりたい」「来てほしい」「場に行きたい」「匿名OK」「外国語対応可」などの項目を入れている。通話料無料、メール可の支援団体はまだ少数だが、金銭的・精神的な負担がほとんどなく相談できること――そこに子どものニーズがあるのだ。
今後も支援団体を増やすために、地道な活動を続けていくと語る森山氏。UU数や相談件数が増えるのに伴い、支援団体が足りなくなる事態が起きている。主にNPOを対象にセミナーや掲載団体募集を行い、掲載数は順調に増えているが、Mexの認知度をより高めていく必要はある。
現在検討しているのはインスタライブやツイキャスなどのライブ配信サービスを活用し、10代の若者になじみのある有名人と支援団体担当者が登場し、月1回程度の公開ライブ相談を行うというものだ。どんな人が相談に乗っているのか、顔や声を伝えて安心感を与えること、Mexという場があることを伝えたいと話す。
「相談のハードルが少しでも下がればいいなと考えています。深刻に悩んでいない時期であっても、気軽にMexを訪れてほしいです。そして、もし本当に困ったときが来たら、Mexという相談できる場があったと、思い出してほしいと願っています」(森山氏)