iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製したシート状の角膜組織を、角膜の重い病気で失明状態にあった女性患者に移植する医療を世界で初めて実施した、と大阪大学の研究グループが8月29日に発表した。患者は無事退院したという。

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    大阪大学のグループが実施したiPS角膜移植の概念図(大阪大学提供)

この先駆的臨床研究を実施したのは、大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授(眼科学)らのグループ。関係者によると患者は40代の女性で、視力が低下して失明することもある「角膜上皮幹細胞疲弊症」を患っていた。西田教授らは、京都大学に備蓄された他人のiPS細胞から角膜の細胞を作り、培養して薄いシート状の角膜組織にして、7月下旬に女性患者の目に移植。移植手術は成功して8月23日に退院した。

今後、慎重に患者の経過を観察するが、術後の様子や視力回復などに問題がなければ年内には2例目を実施するという。大阪大学の今回の臨床研究については、厚生労働省の専門部会が3月に承認していた。

角膜は眼球の最も外側にあり、黒目の表面を覆うレンズの役割をする。角膜の病気は死亡者からの提供角膜(献眼)による治療が一般的だが、提供を待つ患者は全国で多数存在しながら慢性的な角膜提供者不足(ドナー不足)の問題が長く続いていた。また角膜を移植しても拒絶反応が起きる問題もあった。iPS細胞の角膜組織の移植医療が普及すればドナー不足の問題などが克服される。

西田教授らは、2016年にiPS細胞から角膜のほか水晶体、網膜など目の主要部分の細胞を作ることに成功。角膜についてはウサギへの移植に成功して治療効果を確認していた。

iPS細胞の臨床応用では、理化学研究所などが2014年に世界で初めて目の網膜の細胞を患者に移植する臨床研究を実施。京都大学のグループが18年に神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植する治験を行った。

iPS細胞は、現在京都大学iPS細胞研究所所長を務める山中伸弥教授が2006年にマウスでの、07年に人間での作製に成功。12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。再生医療に有望で創薬に生かす研究も進んでいる。

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