陸海空、それぞれのプロフェッショナルが求める極限の機能と性能、そしてタフネスを想定したG-SHOCK「MASTER OF G」シリーズ。「陸」で卓越した性能を発揮する「MUDMASTER」(マッドマスター)の最新作「GG-B100」について、その企画、デザイン、設計を担当した開発スタッフにお話を伺う第三夜。今回は、GG-B100ならではの新機能についてだ。
カーボンの専門家にもわからない「カーボンインサートベゼル」の製造法
カーボンといえば、そのテクスチャーを強力にアピールするベゼルも目を引く。ちなみにこのベゼル、実はカーボンシートを樹脂(ファインレジン)で挟み込んだインサート成形で製造されているのだ。
安田氏「G-SHOCKでも以前からバンドで使っているカーボンインサートの技術を応用しています。一次樹脂、カーボンシート、二次樹脂という3層のレイヤーになっているので、樹脂の厚みを増やしてしまうとカーボンレイヤーが(表面から)遠くなってしまう。そこを工夫しています」
橋本氏「本当は、樹脂を分厚く盛れば樹脂の構造体としては安定するんです。ただ、製品のケース厚に影響してしまうんですよ。G-SHOCKのような時計では、適度な厚さも信頼性やボリューム感として求められるという側面もありますが、やはり厚い時計は身に着けにくい一面があるのも事実なので。その辺は、極限の薄さまで攻めた設計をしてもらいました」
このベゼル、横から見ても、立ち面までしっかりとカーボンのテクスチャーが回り込んでいる。薄いカーボンシートを樹脂で挟み込んでいるようには、とても見えない。
安田氏「フラットな板を切削しているものはあるのですが、立体的にシートを成形しているというのは、極めて珍しいと思います。それだけでも難易度が何倍にも上がりますから。
樹脂を金型で抜くだけなら簡単です。が、カーボンシートが入っているために、普通にやると立体形状の部分にシワが寄ってしまう。カーボン関係の仕事をされている方はこういうところをしっかり見ていらっしゃって、どうやってやってるんですか? という質問をいただくんですよ」
橋本氏「試作を相当やったよね。そもそも、サンドイッチ構造のベゼルが可能なのか、から始めて。製品のリリース時期は決まっているのに、なかなかものにならなくて、もう、上だけ切削のカーボンにできませんか、とか、代わりの素材を一応考えておいたほうがいいのでは、なんて話も出たくらい」
安田氏「そこはやっぱり技術屋の意地があるんですよ。素材メーカーの方とディスカッションしながら、何度も実験と試作を繰り返しました。カーボンシートがはがれてしまったとか、落としたら色が変わってしまったとか、次から次へと課題が出てきて、最後はメーカーさんの製造現場で『ここをこうやってみてください』と、直接指示をしていました。きっと職人さんには、素人が何を言ってんだと思われたでしょう」
それにしてもこのベゼル、どう作っているのかまったくわからない。
安田氏「元はペラペラのカーボンシートなので、樹脂を流すと、どうしてもよれたりはがれたりしてしまう。そこをなんとか密着させるというか、含浸している樹脂と融合させるんです。この融合が一番重要なポイントですね」
BB-G100のカーボンベゼルは4つのバンパーで固定されているが、ここにも橋本氏と安田氏の苦心と挑戦が凝縮されている。
安田氏「この4つのバンパーはウレタン製です。硬いものではないので、めくれてしまうことが多々……。これを恒常的にどう固定するかが課題でした。しかも、このバンパーが小さいじゃないですか。そもそも、こんな小さなものを作れるのかと」
橋本氏「ベゼル部分は、カーボンの良さとウレタンの良さのいいとこ取りにしたかった。耐衝撃性能もそうですが、全体のパーツ点数をそれほど変えずに、ボリュームの強弱を付けたかったんです。安田とは連日電話でずっと話していましたね。恋人か! っていうくらい(笑)。これなら付くかな、この方法だとめくれる、こうするには(パーツの)肉厚が足りない、とか。
早い話が、ウレタン一体型バンパーで覆ってしまえば、一番強いわけですよ。でも、それでは肝心のカーボンテクスチャーが見えない。じゃあどう分割して見える個所を作るか。
最初はGWR-B1000のような(カーボンベゼルだけの)形状も考えたのですが、それではMUDMASTERらしさに欠ける。MUDMASTERのアイコンって何? と考えたとき、このバンパーはやはり外せないんですよね」
そんな橋本氏の思い入れを、実際に形にしなければならない安田氏は……。
安田氏「もう、泣きそうですよ(笑)。お互いギリギリの球を投げ合ってますから。設計としては耐衝撃に強くしたい思いもありますし、なるべく傷が付かないようにもしたい。だから、バンパーは生命線だと思っていました。(バンパーの)凸量も話し合って……。『話し合って』といえばキレイな言葉ですけど(笑)」
目に見えるパーツでいうと、センサーガードも必要なアイコンだ。橋本氏いわく「ガードの役割だけでなく、ここにセンサーが入っているよ、というアピールも兼ねている」という。G-SHOCKはファッションであると同時に、ツールとして見るユーザーも多いので、このようなデザインが特に重要なのだ。