入社の際は、契約する企業から社会保険への加入依頼とともに、加入者の氏名、生年月日、住所、扶養家族、雇用保険番号、基礎年金番号などの情報が記入された「入社(加入)連絡票」が送られてくる。用紙は、メールやFAXのほか、口頭で知らされ、担当者が用紙に書き写すこともあったという。

  • 「入社(加入)連絡票」(サンプル)

これまでは、この情報を人が手入力で社会保険システムに入力していた。また、同時に業務の進捗を管理するシステムにも同じ情報を入力していたという。

役所に対する実際の申請は、社会保険システムによって電子申請していたが、上述のとおり役所からの処理完了通知はなく、担当者が毎日処理完了をチェックし、完了していた場合は書類をダウンロードする必要があり、さらに、完了した旨を企業の担当者にメールで連絡する作業もあった。

  • 企業の担当者に完了を知らせるメール(サンプル)

今回のトライアルでは、この一連の業務を13個のシナリオによってRPA化した。入社(加入)連絡票は、「AIよみと~る」でデータ化してCSV形式で保存。それをRPAによって1件ずつ読み取って、社会保険システムと進捗管理システムに入力するというものだ。さらに、申請済の完了チェックやダウンロード、完了を知らせるメール作成もロボット化した。

電子申請の部分もRPA化できるが、社会保険労務士の仕事をロボットが行うことは法的に好ましくないため、必ず人が内容をチェックしてから申請を行っている。また、現在は完了メール送信も担当者が内容をチェックしてから手動で送付しているが、将来的にはRPA化することを考えているという。

  • RPA化した一連の作業。グリーンの部分をRPAのロボットに置き換えた。オレンジの部分はこれまでどおり、人が作業する

同社では100人ほどがこれらの作業に従事しているが(自分の担当の企業を作業)、これまでは、データ入力作業で月あたり平均495時間、申請済の進捗確認、書類ダウンロード、完了メール通知で315時間かかっていたが、これら810時間(4.7人分)の作業がRPAによって削減された。

現在では、雇用保険の継続給付処理(電子申請の進捗確認、公文書ダウンロード、完了メール送信)の月間216時間分の作業や給与勤怠表作成業務の一部月間111時間分もRPA化し、これらで月間327時間(1.8人分)の作業も削減。トータルで月間1137時間、6.6人分の作業時間削減に成功している。

給与勤怠表作成業務は、現在は小規模企業のみの対応だが、今後、さらに大きな企業にも対応できるようにすれば、かなりの工数削減が期待できるという。

RPA化の効果について葛西氏は、「現場からは、ものすごく楽になっているといわれています。行政関係の申請処理は夜中のほうが安定していますので、タイマー処理で行っています。そのため、朝、人が出社するとロボットが作業し終えた完了メールを送信します。浮いた時間はお客様に接触してコミュニケーションを図る業務や営業活動にまわしています。RPA化は時間的な効果もありますが、更新してダウンロードを待つという単純業務を朝からずっとやっていくのは精神的に大変ですので、その作業をやらなくてもよいというメンタル的な効果もあると思います。今回のRPA化によって、単純に時間だけを積み上げていくと6.6人分の削減ということになりますが、人間はずっと集中できるわけではなく、トイレに行く時間などもあります。それを考えるとこれの2倍くらいの効果があると思います。現在、次のシナリオを準備しており、削減できる作業は無限大だと思います」と語る。

TMC経営支援センター/社会保険労務士法人TMC 代表取締役会長の岡部正治氏も、「電子申請を利用しない場合、役所まで書類を持っていかなければならず、場合によっては半日かかることもあります。それを考えると電子申請とRPAで大きな省力化になっています」と述べる。

  • TMC経営支援センター/社会保険労務士法人TMC 代表取締役会長 岡部正治氏