宝飾店の社長が「パーフェクト」と評価
まるで、試験当日の心臓の早鐘まで聞こえてきそうな伊部氏の話しぶり。だが、それに比べ、当の西村氏はそこまでの心配はしていなかったかのように淡々と語る。
西村氏「GMW-B5000の評価試験を徹底的に行ったので、落下時、どこにどんな力がかかるかはわかっていました。その部分は、18K金の重さや材質的な強度を考えて補強しています。具体的にはバンドの固定部分。18金のピンと樹脂の緩衝体を採用しました」
そして、結果は一発OK。無事、製品化が決定した。それでも、西村氏の憂鬱は消えなかったという。
西村氏「嬉しかったのは本当ですが……、私は耐衝撃性能より、どちらかというと生産のほうが無理なのではと。むしろそちらが気がかりだったので」
そういえば、コンセプトモデルの製造も「1個だけだから」と、匠を説得したとのことだった。では、製品化に際しては別の匠に依頼したのだろうか。そんな匠がほかにもいるのだろうか?
伊部氏「同じ匠の方に再度お願いに行きました」
……本当ですか!?
伊部氏「でないと、あの完成度を実現できないんです。余談ですが、ある宝飾店の社長にコンセプトモデルを見ていただいたとき、『パーフェクト』とお褒めをいただいた。宝飾品を扱っている会社の社長がいうのだから間違いありません。だから、どうしても、製品版はコンセプトモデルと同じ匠の方にお願いしたかったんです」
伊部氏「最終的になんとかお引き受けいただけましたが、月産可能個数は2個。G-D5000-9JRは世界限定35個と、数だけ見れば少ないですよね。ただそれでも生産終了まで1年以上かかります。
『35』という個数はG-SHOCK生誕35周年を締めくくる商品という意味もありますが、実際はこの数が製造数の限界なんです。ケースも手間がかかり、なんといってもバンド。西村の説明通り、工程が複雑で部品点数が多く、仕上げも手が込んでいるので……。しかもコマにはつなぐ順番がありますし、もちろん、すべて手作業です」
なお、アッセンブリーは山形カシオで行われる。伊部氏いわく「山形カシオでなければできない」とのこと。伊部氏が自ら何度も山形へ足を運び、綿密な打ち合わせを繰り返したという。
伊部氏「裏ぶたを締めるのも恐ろしいですよ(笑)。とにかく、いかに効率よく、傷を付けず大切に組み立てるかを研究しました。そのために専用の工具を何種類も作って、試してもらったりとか。この経験は、きっと次世代のノウハウにつながると思います」
金無垢G-SHOCKの製品モデル「G-D5000-9JR」はまだ生産中なので、実機をお見せできないのが残念だが、外観の一部がコンセプトモデルとは変わるとのこと。それはベゼル形状と見切りの印刷部分、そして裏ぶたの刻印だ。
伊部氏「コンセプトモデルのベゼルは、例えば最近の定番商品「GW-M5610」のものと同じ凹凸のある形状です。しかし実は、オリジンのGW-5000ではここはフラットなんですよね。
私もうっかりしていたのですが、金無垢G-SHOCKはあくまでオリジンへのオマージュなので、やはりフラットであるべきと判断しました。評価試験モデルは正しい形状ですね。ちなみに、GMW-B5000もフラットです。
見切りの印刷は、もっとシンプルになります。裏ぶたは、この大きな私の名前はなくなって(笑)、専用の刻印と『1 out of 35』(35個中の1個)と文字が刻まれます。最初はシリアルナンバーを考えていたのですが、全部「1」がいいというアドバイスを受けまして」
G-SHOCKの歴史に燦然(さんぜん)と光り輝くメモリアルピース「G-D5000-9JR」。その実物が購入者の手元に届き始めるのは、2019年12月ごろからだ(予約受付はすでに終了している)。