6月18日、都内のWarehouse TERRADAにおいて同21日までの期間で日本IBMのイベント「Think Summit」が開幕した。本稿では先日、同社の社長に就任した山口明夫氏の基調講演の模様をお伝えする。

冒頭、山口氏はグローバルを取り巻く環境としてドローン物流の実用化やキャッシュレス取引、産業用ロボットの導入、AIなどについて触れた。

その上で日本社会と企業が直面する課題に関して同氏は「デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション、DX)の遅れにより、2025年以降に年間12兆円の経済損失が見込まれているほか、IT人材は43万人の不足し、国民の3分の1が高齢者となる。一方、われわれの調査によると企業の80%がイノベーションの創出に向けた積極的な取り組みを展開しているが、自社のみにとどまっている。そのため、外部の企業と協業するエコシステムを構築することで、従来以上のイノベーティブなアイデアが生み出されるのではないかと考えている。もちろん、外部との取り組みを積極的に進めている企業も存在することから、このような協業を加速すれば遅れを取り戻し、前に進めるだろう」と述べた。

  • 日本IBM 代表取締役社長 執行役員 山口明夫氏

    日本IBM 代表取締役社長 執行役員 山口明夫氏

このような状況に対して、同社ではDXを「第1章」「第2章」「その先」と分類している。この点については、2月に開催した米IBMの年次カンファレンス「IBM Think 2019」においてIBM Chairman President and CEOのGinni Rometty(ジニ・ロメッティ)氏が言及しているが、ここでもう一度おさらいしておこう。

DXの第1章は部門単位のデジタル化やAIに加え、アプリケーションなどをクラウドを提供し、20%の業務のデジタル化、実証実験のフェーズだった。現在地である第2章は、企業単位で80%の業務のデジタル化、本格展開・基幹連携し、攻めに転じるフェーズとして位置づけている。そして、その先は社会の在り方の変革、あらゆる枠を超えた連携、テクノロジーが豊かな社会をもたらすフェーズとしている。

  • デジタル変革における第1章、第2章、その先の概要

    DXにおける第1章、第2章、その先の概要

日本IBMが約束すること

そのような中、同氏は「われわれは『デジタル変革の推進』『先進テクノロジーによる新規ビジネスの共創』『IT・AI人材の育成』、そしてデータとAIに関する『信頼性と透明性の確保』の『3+1』で企業を支援する」と強調する。

  • 「3+1」の概要

    「3+1」の概要

DXの推進については、第2章の道しるべとして「組織と人」「エコシステム」「ワークフロー」「先進型テクノロジー」「ビッグデータ」「次世代アプリ」「次世代インフラ」の7層に分けて、顧客におけるDXの現在地を把握することを幅広く支援し、インテグレーターとしてオープンなIT基盤を提供するとともに、業界ごとのプラットフォームとエコシステム構築も支援するとしている。

  • デジタル変革推進の概要

    デジタル変革推進の概要

先進テクノロジーによる新規ビジネスの共創に関しては、次世代AIや量子コンピューター、世界最小クラスのコンピューター、食の安全テクノロジーを提供し、共創を促すとしている。一例として、ミツフジ、ワコール、Peach Aviationとの事例を紹介し、ミツフジは特殊繊維を活用したウェラブルデバイス、ワコールはデバイスを適用したアンダーウェアの開発、Peach Aviationは客室乗務員による着用テスト、日本IBMがIoT技術をそれぞれ担当した。

  • IBMが有する先進テクノロジーの概要

    IBMが有する先進テクノロジーの概要

IT・AI人材の育成では、企業にはAI人材の早期育成から同社のCDOのノウハウ提供によるエキスパート育成までを支援し、学生には自治体、学校、企業が連携して取り組む教育モデル「P-TECH(Pathways in Technology Early College High Schools)」に東京都教育委員会、片桐学園と取り組んでいる。また、7月からは同社の全社員が開発およびデータ活用のスキル取得するための研修を行うという。

  • IT・AI人材育成の概要

    IT・AI人材育成の概要

信頼性と透明性の確保については、(1)IBMが開発する「AI」の目的とするところは、あくまで人間の知能の「拡張」であって「代替」ではない、(2)AIなどを通じて入手したデータや知見は、それらの創作者や所有者に帰属し、IBMは顧客に所有権の譲渡を求めない、(3)AIをはじめとした最新技術は企業や社会が理解し、信頼できるよう透明性を持ち、説明可能なものでなければならなく、いかなる人もブラックボックスを無条件に信用するよう求められるべきではない、この3つの基本理念としている。

  • 信頼性と透明性の確保に関するIBMの基本理念

    信頼性と透明性の確保に関するIBMの基本理念

最後に山口氏は「DXを推進し、新しいテクノロジーを活用して顧客とともに新規ビジネスの創出を図り、企業、学生を支援することに加え、われわれ自身もスキルアップしていく」と意気込みを語っていた。