Astell&Kern(アステル・アンド・ケルン)といえば、音質重視のデジタルオーディオプレーヤーとして定評あるブランド。そのAstell&Kern(以下、A&K)が2年ぶりに新フラッグシップモデルを発表するとなると、気にならないワケがありません。新製品発表会に足を運び、その音をじっくりとチェックしてきました。

2年ぶりのフラッグシップモデル

  • A&ultima SP2000

    2年ぶりのフラッグシップモデル「A&ultima SP2000」

今回発表された製品は、独beyerdynamicとのコラボによるイヤホン「AK T9iE」と、デジタルオーディオプレーヤー「A&ultima SP1000」専用の外付けアンプ「SP1000 AMP」、そしてデジタルオーディオプレーヤー「A&ultima SP2000」の3製品。いずれもA&Kらしい直線を生かしたデザインと、音質を追求した仕様を備えています。

AK T9iEは、2016年に発売されたカナル型イヤホン「AK T8iE MkII」をアップデートした製品です。1テスラ(1万ガウス)という高い磁束密度を実現した独beyerdynamicの「テスラテクノロジー」ユニットに加え、ボイスコイルの周囲に通常の2倍以上という強力な磁石を配置するなど、基本コンセプトは引き継がれているものの、新開発のアコースティックベントポートにより低域再生能力が改善されています。

  • AK T9iE

    2016年発売のAK T8iE MkIIをアップデートした「AK T9iE」

続いて紹介されたSP1000 AMPは、デジタルオーディオプレーヤーの現行フラッグシップ機、A&ultima SP1000専用の拡張ヘッドホンアンプです。覆うように装着することで、SP1000に3.5mmアンバランス出力と、2.5mm/4極バランス出力が備わります。バランス接続時には最大10Vrms、アンバランス接続時には6.2Vmsという高出力が特長です。

  • SP1000 AMP

    A&ultima SP1000専用のヘッドホンアンプ「SP1000 AMP」

発表会のトリを飾ったのは、新フラッグシップのA&ultima SP2000。旭化成エレクトロニクスの最新にして最上位のDACチップ「AK4499EQ」をデュアルで使用、アンプ部も強化されています。対応フォーマットはPCMが最大768kHz/32bit、DSDは22.4MHzまでのネイティブ再生が可能、MQA再生もサポートされるという抜かりなさ。価格はオープンプライスですが、直販価格は479,980円(税込)と、SP1000に比べ若干財布に優しくなったこともポイントです。

  • A&ultima SP2000

    SP2000のデザインは、SP1000の「光と影」を発展させた「光の拡散」をテーマにしているそうです

  • A&ultima SP2000

    SP2000の裏面。SP1000と比べると、金属部の割合が増えています

DACに「AK4499EQ」を採用した意味

A&ultima SP2000(以下、SP2000)は、超ヘビー級の筐体や直線を生かした鋭角的なデザインなど基本コンセプトはSP1000を引き継いでいますが、中身は別モノ。新たに採用したDACチップ「AK4499EQ」は“電流出力”で、SP1000に採用されていた“電圧出力”のAK4497EQとは大きく異なります。

  • A&ultima SP2000

    SP2000の底面。SP1000に用意されていたアクセサリ用拡張端子は廃止されています

DACチップは進化につれ、電流出力から電圧出力へと変遷してきましたが、電圧か電流かは音質に関わる重要なポイントです。電圧出力の場合、チップ内蔵のオペアンプでIV変換(電流/電圧変換)を行うため、後段となるアナログ部の設計が比較的容易で特性を得やすいものの、純粋なディスクリート構成(簡単にいうとICに頼らない回路構成)にはできません。

IV変換回路は音作りの領域であり、設計の自由度が増すため(だから電流出力イコール高音質とはいえない)、電流出力型DACのほうが「狙った音」にしやすいメリットもあることから、コンポーネント機の分野を中心に根強い支持がありました。

  • A&ultima SP2000

    SP1000とSP2000の内部基板

旭化成のDACチップには、これまで電圧出力方式でしたが、このAK4499EQで初めて電流出力方式を採用しました。電流出力に最適化したというローディストーションテクノロジーの導入により、SN比は140dB(MONOモード時)、高調波歪率も-124dBと、驚異的な数値を達成しています。

しかし、前述したとおり電流出力方式に変更されるとIV変換回路が必要になります。SP2000のキモはまさにここで、アナログアンプ段をいちから設計し直さざるをえなくなった反面、“新しいAstell&Kernの音”を作り出せるようになったというわけです。

SP2000のここがイイ!

いよいよSP2000の試聴タイム。試聴用イヤホンを自宅に忘れるという失態があったものの、聴き慣れたbeyerdynamic T5pのA&Kコラボバージョン「AK T5p 2nd Generation」が会場に用意されていたので、それを拝借。じっくり聴いてみました。

  • A&ultima SP2000

    試聴は「AK T5p 2nd Generation」との組み合わせで行いました

聴き始めてすぐ気付いたのは、S/Nの高さです。眼前には広々とした空間が広がり、奥行きの深さも感じます。コントラバスも深く沈み込むだけでなく、指が弦に触れるか触れないかくらいの微妙なタッチも丹念に描きます。

解像感は高く、音の輪郭の緻密さ・微細さも秀逸で、ピアノをサステインしたときの音の消え際がリアルに感じられます。SP1000も完成度の高いプレーヤーですが、さらに一段高みに登ったような印象を受けました。

SP1000との比較でいえば、セパレーションと定位に変化を感じます。AK4497の入出力が4ch仕様ということから、オーディオチャンネルをバランス・アンバランス出力で完全に分離した設計が奏功しているのでしょう。ヘッドホンリスニングのみならず、デジタルトランスポートとしての可能性も感じました。

  • A&ultima SP2000

    AK4497の入出力が4ch仕様ということから、SP2000ではオーディオチャンネルをバランス・アンバランス出力で完全に分離した設計に変更されています

試聴しつつ、新機能の「カーモード」も試してみました。スマートフォンでは珍しくない、水平に構えたとき画面を横長に表示するモードですが、曲送り・戻しボタンが大きくなり、操作しやすくなったことが意外な発見でした。関係者に聞くと、海外で車載利用のリクエストが多いため用意したとのことですが、ふだん使いでもアリかもしれません。

  • A&ultima SP2000

    新機能の「カーモード」で表示したところ

2年ぶりのフラッグシップモデルということで注目していたSP2000ですが、その期待感はいい意味で裏切られました。ハイエンドDAPの先駆ともいえるAstell&Kernの進取の気性を、今回改めて感じた次第です。強いていえば、この価格帯であれば4.4mm端子も用意してほしい、どうせならmicroSDスロットを2基にしてほしいとは思いますが、いつかはSP1000と考えていたファンには、“ど真ん中”に刺さる1台なのではないでしょうか。