NECは5月27日、同社のAI「NEC the WISE」を活用し、がんなどの先進的免疫治療法に特化した創薬事業に本格参入すると発表した。

同社が参入するのは、自身の免疫系を利用してがんを治療する「がん免疫療法」の分野。人のゲノム情報が傷つくと異常な細胞が発生して、それが増殖するとがんになることから、NECでは正常な細胞と異常な細胞のゲノム情報を比較し、約30億塩基対の中からAIによって特徴的ながんの目印を探し、それに対応するワクチンをランキング付けして算出する。そして、ランキング上位の個別化ネオアンチゲンワクチン(TG4050)を生成し、患者に投与して、治癒に役立てる。

  • 個別化がん免疫療法とゲノム情報の関係

  • 膨大なゲノム情報からがん細胞の目印を見つける

ワクチン開発の鍵となる、患者ごとに特異的なネオアンチゲンの選定には、NECが開発した「グラフベース関係性学習」を活用した「ネオアンチゲン予測システム」を活用する。ネオアンチゲンというのは、がん細胞の遺伝子変異に伴って新たに生まれたがん抗原のことで、正常な細胞には発現せずがん細胞のみにみられ、またその多くは患者ごとに異なるという。

  • 「ネオアンチゲン予測システム」

NECでは、第一弾として欧米において、パートナーである仏Transgene STransgene(トランスジーン)と共に頭頸部がんと卵巣がん向けの個別化ネオアンチゲンワクチンの臨床試験(治験)を開始する。仏Transgene STransgeneは、実際のワクチンの生成を行う。

すでに2019年4月に米国FDAから本治験実施の許可を取得し、その他、イギリスとフランスで申請中だという。

NEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット 藤川修氏は今回の事業内容について、 「医療の現場で、当たり前のようにゲノム情報の解析が行われる時代が迫っている。われわれの体内では新陳代謝によって、古い細胞の遺伝子がコピーされ、新しい細胞に生まれかわることによって、生命が維持されている。しかし、遺伝子の情報に傷がつくと異常な細胞が生まれ、それが増殖することによってがんになっていく。がん細胞の目印をターゲットしてワクチンをつくり、患者さんに投与することで、免疫ががんを攻撃するようにできる。そういった仕組みを考えている。患者さんのゲノム情報や状態にあわせてワクチンをつくることができれば、個別化がん免疫療法が可能になる。それには、30億個の塩基対をその患者さんにあわせ、その都度解析する必要があり、もはや、これまでの薬の作り方では、このようなワクチンは作れない」と説明した。

  • NEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット 藤川修氏

藤川氏は、NECには創薬事業に本格参入するにあたり、これまでの20年間の研究開発によって蓄積された2つの大きな強みがあるとした。

1つは、機械学習エンジン「グラフベース関係性学習」で、もう1つが「独自の試験データ」。「グラフベース関係性学習」は、異なるデータからその関係性を導きだすことができ、欠損値を予測できる点が強みだという。「独自の試験データ」は、専門家とのコラボレーションによって質の高い独自の実験系とデータベースを作れる仕組みを築き、それによるノウハウの蓄積があり、精度の高い予測につながるという。

  • NECの2つの強み

藤川氏は、ゲノム分析からワクチンの生成までの期間を1カ月にすることが目標だとした。そして同社は、2025年に3000億円の事業価値を創出を目指す。