「4つの柱」に分類した研究プロジェクト
現在、Labでは幅広い領域において49のプロジェクトが動いており、「AIアルゴリズム」「AIの産業応用」「AIのための物理学」「AIのもたらす豊かさの社会的共有」の4つの柱に分類している。
AIアルゴリズムは、機械学習と推論の能力を拡張するための高度なアルゴリズムの開発として、複雑な問題に取り組み、堅牢な継続的学習からメリットを得るような、専門的なタスクに限定されないAIシステムを新たに開発するほか、ビッグデータが利用可能な場合には活用する一方、限られたデータからも学習して人間の知性を拡張できる新しいアルゴリズムを開発する。
AIの産業応用に関しては、ヘルスケアやサイバーセキュリティなどの分野で専門家が利用する、新しいAIアプリケーションを開発し、医療データのセキュリティとプライバシー、パーソナライゼーション、画像解析、患者別の最適な治療方針などの分野で、AIの利用が検討されている。
AIのための物理学は、AIモデルの学習と導入について新しいアナログコンピューティングのアプローチを実現するようなAIハードウェア材料、デバイス、アーキテクチャに加え、量子コンピューティングと機械学習の組み合わせについて研究。後者は、AIを利用して量子デバイスの特性の調査と改善を支援するほか、機械学習アルゴリズムとそのほかのAIアプリケーションを最適化し、高速化するための量子コンピューティングの利用についても研究する。
AIのもたらす豊かさの社会的共有では、研究所において広範な人々、国、企業に対して、AIがどのように経済的・社会的なメリットをもたらすことができるかを検証。また、AIの経済的影響を研究し、AIがどのように生活を豊かにし、個々人の目標の実現を支援できるかを調査する。
機械が絵を描くことで物体を認識
このうち、トラルバ氏が携わるAIアルゴリズムのプロジェクトとして、機械が絵を描くことで物体を認識させる事例が紹介された。
これは、大量の画像を機械に与え、画像が画像たる所以を把握させ、現実的な絵を書かせるというものだ。2010年時点ではボヤけた絵しか描けなかったが、2018年には生成ネットワーク(Generator network)と識別ネットワーク(Discriminator network)の2つのネットワークから構成されるGAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)により、かなりの精度向上が図れているという。
同氏は「プロジェクトの目的は上手に絵を描けるまでに機械は何を学んでいるのか、ということだ。われわれは、ニューラルネットワークが絵を描くためには『内部表現』から学び、特定のものを描き出す、ということを見出した」と語る。
そして、トラルバ氏は「例えば、リビングルームを描く場合、個別に窓、ソファなどに特化するニューラルネットワークが存在し、ネットワークの中で『コンセプト』が生成される。このコンセプトが重要であり、誰もコンセプトをネットワークに教えておらず、ネットワークの唯一のタスクはリアルに見える画像であり、窓やソファなどのコンセプトは存在しない」と続ける。
つまり、ネットワーク自身がコンセプトを発見し、このようなコンセプトはネットワークが自身の内部表現から学んでおり、表現さえ把握すれば、どのようなものでも描けるため、専門家でなくともネットワークに多少の変更を与えるだけで、ネットワーク自身が新しい絵を生成することが可能だというわけだ。
最後に、コックス氏は「MITと連携し、将来的なAIに向けてさらに研究を継続していく」と、胸を張っていた。