2017大会からはフィニッシュエリアが東京駅付近に変更されたことを受け、飛行船から気球へと中高度監視のツールが変更された。さらに軽量カメラを会場案内のプラカードに取り付けたり、リタイアしたランナーを収容するバスに車載カメラを搭載したりといった手法でカメラ台数をさらに増加し、それらの映像・情報を一元管理する統合監視センターの設置・運用も請け負った。
「災害時への対応ツールとして災害対応スピーカーの設置も始まりました。また前年にナンバーカードで行った本人確認を、リストバンドに変更したのが2017大会です。専用ツールでしか読み取れないセキュリティQRコードを組み込んだリストバンドを事前のナンバーカード配布日に身につけてもらい、これで入場人数管理と本人確認を行いました」と髙橋氏。
人数の関係上、本人確認の全員実施はハードルが高く、2018大会までかかっている。リストバンドは、医療現場でも使われる素材を採用した安全性の高いものではあるが、大会前の事前配布のため配布日から大会当日まで着用しつづける必要があり、不安を訴える人もいたという。
「私自身も身につけて大丈夫なものですとアピールしたりしましたが、2018大会ではどうしても長期着用が難しい人向けに、当日装着できる場を設けました。一方で、記念として翌年大会までつけたままにしている方もいます」と髙橋氏は多彩な参加者への対応の難しさを語った。
2018大会ではさらに、統合監視センターだけでなく大会本部での監視と、自動車を利用した移動式監視センターも設置。混雑やパニックの検知、コース内侵入検知といった監視をAIで実現するようになった。このAI画像認識は2019大会で本格利用が開始されている。2019大会ではほかにも、新型のセコム気球や、カメラも取り付けた緊急対応バイクが導入され、他の警備会社と連携するためのスマートフォンアプリの活用も開始された。
スマートフォンに専用アプリ&ケースと外部カメラで構築したウェアラブルカメラ
「世界一安全・安心なマラソン大会」を目指して年々充実がはかられる警備体制は、大会運営側の要望に応えるのはもちろん、セコム側からも多彩な提案を行った。
「運営にしっかりと関わらせていただき、ミーティングにも毎回参加しています。大会運営の方ともきちんと話ができる関係が構築できているので、要望の聞き取りや提案ができているのだと思います」と髙橋氏。近年の大会で使われ続けるシステムのうち、いくつかについて解説してもらった。
まずウェアラブルカメラについては、スマートフォンに警備用アプリを入れることで実現している。男性警備員はケースごと胸につける形をとっているが、カメラには警備員自身のトイレ利用や、女性が前にいる状況での階段利用といったプライバシー配慮が必要な状況に対応するために、レンズ部を覆うシャッター機能がつけられている。
「いろいろと工夫しましたが、物理的に塞いでしまうのが確実で便利だということでこの形になりました。緊急時の報告や指示確認などで画面操作をする時にはパカっと開いて見下ろしながら操作できるようになっています。女性の場合はこのケースでは扱いづらいということで本体をバッグに入れ、外部カメラを胸につけています。このカメラは軽量なので、プラカードにもつけられるようになりました」(髙橋氏)
警備員からの通報は位置情報とあわせて画像やテキストの送付が可能で、それらの情報が監視センターに集まる。地図上にはインシデント発生場所が表示され、駆けつけ指示を出した後にはスマートフォンの位置情報から誰が駆けつけたのかがわかる仕組みだ。
物から人、さらに状況検知へと進化するAI画像監視
最初は十数台だけだった仮設カメラも、2019大会では140台まで増えている。さらにウェアラブルカメラ等が増えたことで目視での監視が難しくなり、AIが取り入れられた。
「2017大会から部分的にAIを取り入れていたのですが、その時は不審者を捜して欲しいという要望でした。不審者とはどんな人だろうと考えた時、不自然に大きな荷物を持った人だろうと想定して、放置荷物と一緒に大荷物の人も検知するようにしたのが始まりです」(髙橋氏)
監視画像は常に一旦セコムのセンターで収集され、そこから現場の統合監視センターへ配信される。この時にAIで画像解析を行う仕組みだ。
「最初は鞄というのはこういうものというデータベースを作り、画像から放置された鞄の位置を記録しました。そして、いつからそこに置いてあるものなのかを認識しておき、長時間放置してある荷物を不審物としたわけです。2017大会時点では物体を検知していましたが、2018大会では人を、2019大会では状況を読み取るように進化しています」(髙橋氏)
人の検知というのは、コースへの侵入者の検知だ。スタッフ、警察官に加えランナーを正規の参加者とし、コースにそれ以外の人が侵入していないかを確認。また、ランナーがつけているナンバーカードの数字を読み取ることで、複数の人が同じ番号つけるような「なりすまし」がないかも検知された。
「ランニングウェアでない人、ランナーらしくない格好の人というのを読み取ろうと思ったのですが、意外に難しかったですね。仮装ランナーの方がいるので、ランナーらしくないというのが難しいのです。またレース中に立ち止まって記念撮影する人もけっこういるので、走っていない人、背中を向けている人もけっこう出てきてしまいます」と髙橋氏は苦笑する。お祭り感のあるイベントだけに、単純な識別は難しいようだ。
2019大会で実施された状況検知は、警官や消防官といった人を含めた人々を「制服を着ている人」という設定で検知し、そういった人が多く集まっている場所やパトカーが止まっている場所であれば、何か問題の起こっている場所だと判断するような使い方だ。
「人通りを監視して混雑があれば対応する、順調に流れていたり立ち止まっていたりした人がぱっと方々に駆けだしたらパニックが起こっているかもしれないとアラートを出す。そんな使い方をしました」と髙橋氏は解説。高まる要求に対応して技術を高めながら、将来的にさらなる活用を実現させるためのデータ収集や現場活用を行っているという。