ホームセキュリティやオフィスセキュリティで知られるセコムは、警備員を派遣しての立哨警備等のほか、各種システムを活用した警備を得意としている。自社で機器やソフトウェアの研究開発を行うのはもちろん、他社製品をカスタマイズしての活用も盛んだ。
「機器を利用した警備を行うだけでなく、その開発・製造や販売営業活動、機器の取り付け工事、実際の監視と緊急対応、そして機器の保守までトータルで提供できるのがセコムのセキュリティサービスが持つ特徴です」と語るのは、セコム 技術開発本部 開発戦略G / Tokyo 2020推進本部 マネージャーの髙橋哲也氏だ。
機器やソフトウェアの開発等を受け持っているのが技術開発本部であり、その中で固定的に属する先を持たないプロジェクトに携わるのが開発戦略Gだという。東京マラソンの警備も、これに該当する。
「セコムでは立体セキュリティに向けた取り組みということで、監視カメラ等を利用した従来の地上警備と、ヘリコプターや飛行機を利用するような超高度の警備の中間である、地上10~30m程度の部分をドローン(東京マラソンでは利用していない)で、100m程度の部分を気球や飛行船でまかなうという研究を進めてきました。そうしてできた民間防犯用飛行船として、世界ではじめて実用化されたセコム飛行船の初舞台となったのが東京マラソン2016でした」(髙橋氏)
2015年2月に開催された東京マラソン2015が、セコムがセキュリティシステム担当としてはじめて東京マラソンに関わった大会であり、以来継続してシステムの提案・提供・運用を担っている。
東京マラソンは、毎年出場ランナーが抽選となる人気大会だ。特に一般参加の倍率が高く、10倍以上の抽選倍率となるのが当たり前になっている。2019大会では、マラソンの一般エントリー募集27,370人に対し、330,271人が応募した。それだけに、セキュリティ面ではランナーや観客の安全を確保するという一般的な警備に加え、「なりすましランナー」の検知も求められている。
仮設カメラ数十台の2015大会からはじまったセコムの東京マラソン対応
初対応となった2015大会では仮設の監視カメラを十数台設置し、モニター監視ができる体制を整えた。「セキュリティと、大会運営側の現場確認という要求に対応するカメラでした」と髙橋氏は振り返る。
仮設カメラは信号機の柱にくくりつける形で設置できるが、その足下にはバッテリーが設置される。その際、バッテリーボックスへのいたずら防止策が必要となるほか、2016年以降に設置台数が増えるにつれ、電源管理の必要性も出てきた。
「設置数が増えると数日前から各所に置くわけですが、設置時点で電源を入れてしまうと開催当日には利用できなくなってしまいます。そこで映像伝送用の他に細い専用回線を搭載し、遠隔で当日に電源を入れられるようにしてあります」と髙橋氏は解説する。
2016大会では仮設カメラが増えたほか、フィニッシュエリア(旧コース)として設定された東京ビッグサイトの駐車場で係留型飛行船による中高度からの監視と、禁止しているドローン飛行が行われないようにする監視するドローン検知システムの運用が行われた。どちらも、本格的なデビューとなったのがこのタイミングだ。
「このほか、参加者に当日入場場所を案内するスマートフォンアプリの提供(2019年大会はなし)も行いました。多くの参加者が1つの入り口に集中しないよう、行き先を指示するものです。また、実験的に一部参加者を対象に、事前配布日に本人確認を済ませてあるナンバーカード(ゼッケン)を、ちゃんと本人が着用しているかを検知するシステムや、試験運用としてウォークスルー指静脈認証システムなども利用しました」(髙橋氏)
さらに2016大会からは、現場警備員にスマートフォンを利用したウェアラブルカメラを持たせることで、カメラ数を増やしつつ緊急時の通報や駆けつけ警備を効率化する仕組みも取り入れた。