横浜市立大学は3月22日、東京・新宿において、データサイエンス人材育成に向けたイベント「WiDS Tokyo @Yokohama City University」を開催した。

WiDS(Women in Data Science)はもともと、米スタンフォード大学を中心として2015年から始まった、ジェンダーに関係なくデータサイエンス分野で活躍する人材を育成することを目的とした活動。今回のイベントでは、データサイエンス領域で活躍する女性たちを主体とした事例の発表・討論や、「新しい働き方」に関するデータ活用のアイディアソンなどが行われた。

本稿では、同イベントのパネルディスカッションの様子についてお届けする。

データサイエンスとは何か?

パネルディスカッションでは、データサイエンス分野における課題や展望などについて、WiDSアンバサダーの横浜市立大学 国際総合科学群 准教授 小野陽子氏をオーガナイザーとして、慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 教授 渡辺美智子氏、サイバーエージェント 向坂真弓氏、NTTドコモ 執行役員 デジタルマーケティング推進部長 白川貴久子氏、そしてWiDS TOKYO @ Yokohama City University ステアリングコミティのメンバーで討論が行われた。

  • 左から、慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 教授 渡辺美智子氏、サイバーエージェント 向坂真弓氏、NTTドコモ 執行役員 デジタルマーケティング推進部長 白川貴久子氏

まずはじめに小野氏が投げかけたのは「データサイエンスとは何か?」という問い。

大学で統計学などの教鞭をとる渡辺氏は、「身のまわりの物事や業務の流れを、客観的な指標をもとに捉えていくという点では、データサイエンスはすべての人が身につけるべき基礎素養。さらに、それをどうやって価値に結びつけていくかという発想も重要となる」と説明する。

また、人事部門で人事データの収集や分析業務を行う向坂氏は、「データを使って最終的な意思決定を行うのは人間だが、その意思決定を自信を持って行えるように、データを活用して課題を解決していくこと」、デジタルマーケティングを推進する白川氏は「データサイエンスを含むサイエンスは、事実に基づいた検証を行っていくもの。さまざまな課題を解決するうえで、共通言語になり得るため、ダイバーシティの要素もある」と、それぞれの経験や立場からデータサイエンスの位置づけや重要性について語った。

テータサイエンスには文系・理系双方のセンスが必要

では、そうしたデータサイエンスの分野へ性別によらず多くの人材を誘致するにあたっては、どのような課題があるのだろうか。

ステアリングコミティのメンバーである情報・システム研究機構 統計数理研究所 所長 樋口知之氏は、「現在のあらゆる産業は文系・理系双方のセンスが必要となるので、文系・理系に分ける教育にそもそも問題がある。データサイエンス自体はいつでも学べるもので、知識だけでなく発想も重要視されるのが特徴」と、日本の"文系・理系"に分けた教育システムではデータサイエンスの重要性を捉えきれないと指摘する。

これに対し、自身も文系出身であるという向坂氏は、「私自身もデータを使う仕事をするとは思っていなかった。しかし、データサイエンスにおいては、分析のスキルさえあればよいというわけではない。関係各社を巻き込んで課題を設定するコミュニケーション力や、分析結果を解釈して施策に落とし込む読解力なども必要になる。男性・理系・分析スキルに長けた人だけが活躍できる、という誤解を解いていくべきである。女性がデータサイエンスの分野で活躍していることを世の中に発信し、こうした仕事があることを伝えて行くことが重要」と、樋口氏の意見を支持した。

データサイエンスをどう普及させていくか

データサイエンスの重要性を理解しながらも、実際には現場のデータが死蔵されていたり、データ活用の仕組みが整備されていなかったりするケースも多い。データサイエンスを普及させていくためには、具体的にどういった取り組みを行っていくべきだろうか。

3年前にデータ活用を始めた際にまさにそのような状態だったと振り返る向坂氏は、「1年間かけて全体の意識が変わっていった。『データにはこういった使い方があるんだ』、『感覚で悩んでいたところをデータで判断できるんだ』ということが現場の人たちにわかってもらえればデータ活用は進む。まずは現場の人たちがやっている業務にデータがどのように役に立つかを実感してもらうことが大切」とする。

また、ステアリングコミティのメンバー 日本電信電話 新ビジネス推進室地域創生担当統括部長大西佐知子氏は、「品川区の職業体験施設『スチューデント・シティ』では、小学生が人流データを解析して、『来客が少ない午前に値下げをしては』というアイディアを提案することもある。このように、生活者としていかにデータを使って課題解決するかというクセを常日頃から身につけておくと、企業でも活きてくるのでは」と、まずは身のまわりの物事からデータ活用の可能性を探っていくことの重要性を主張する。

こうした動きがある一方で、大学においてデータサイエンスはいまだに論文数などの内向きな評価が重要視される傾向にある。そこで小野氏は、データサイエンス教育を大学でやる意義について問いかけた。なお、小野氏は、データサイエンスの学術的な体系は従来と異なり、ギボンズらが主張するモード2科学の一種として認識すべきであるとしている。

  • モード1科学とモード2科学の違い

渡辺氏はこの説に補足する形で、「研究費は国から捻出すべきという考え方があるが、データサイエンスの分野に関しては変わってきている。データサイエンスで重要なことは、社会課題をいかに解決するかということ。民間からの研究費や人材、課題を受け入れ、一緒に解決して行く時代に変わってきている。しかし、これを実現するには、論文数などでしか評価できない古い大学のモデルからいかに脱却するか、企業の血をどう取り入れ、どう連携していくかということを考えていくことが重要となる」とした。

最後に、データサイエンスやデータ活用に取り組んでいきたい人に向けたメッセージとして、白川氏は、「技術は進化するので、軽やかに使いこなしていったほうがよい。データサイエンスは世の中を変えていく可能性がある分野なので、ぜひ怖がらずにチャレンジしてほしい。また、データサイエンスの技術を軽やかに使うために、芸術や感性、倫理などさまざまな経験、知識を深く実感できるような人とのコミュニケーションも広げていってほしい」と語った。