Appleは22日、MacのキャンペーンCM「Macの向こうから」の新シリーズを公開した。
「Macの向こうから」は2018年6月に発表されたグローバル規模でのMacのキャンペーンで、Macを使ってクリエイティビティを発揮している世界中のユーザーが登場。第一弾では「世界を変える何かを」というメッセージとともに、筋電センサーを使った作品で知られるRhizomatiksの真鍋大度らが出演した。
今回の新シリーズは日本向けに制作されたもので、Macを使って創作的な活動をしている大学生が登場する。
そのCMに起用されたのが、本稿で紹介する、ミュージシャンのMomだ。
Momは2018年11月にファーストアルバム『PLAYGROUND』をリリース。iPhone/iPad/Mac用の音楽制作アプリ「GarageBand」を駆使して生み出されるサウンドは、ヒップホップを基調としつつ、人懐っこいキャッチーなメロディを身上としている。その才能は音楽だけでなく、アートワークでも発揮され、アルバムカバーのビジュアルやMVの監修も務めている。
──一聴してみて、トラップやダブ・ステップまでカバーした今風のトラックながら、どこか懐かしさを漂わせ、80年代末~90年代に十代を過ごした層にも響くという印象を受けた。音楽的なバックグラウンドはどのようなものだったのだろう?
Mom 自分から掘るようになった、というか、好きになったのは、B'zです。ドラマの主題歌かなにかで流れていて、それを聴いて「あ、凄くカッコいい人たちだな」と思って、それが小学校3年生くらいです。B'z経由でエアロスミスとか海外のアーティストも聴き始めて、そこからイギリスのバンドとかも。バンドがすごい好きで、中学校ぐらいからギターを弾いてるんのですけど、GREEN DAYとかOASISとか、王道系をひとりで部屋でコピーしたりとかしてました。それからメンバー集めてコピーバンドやったりして。
──バンドものから入ったのはともかく、GREEN DAYやOASISは世代ではないのではないだろうか。
Mom 世代ではないですね。その辺りのバンド、新譜は出続けてたからっていうのもありますけど。中学くらいってケータイがなくて、インターネットが身近にある環境ではなかったので中古CDショップに行って、「あ、これ聴いたことない」とか、所謂ジャケ買いしたりとかしてました。あと古い雑誌、「CROSSBEAT」とか「SNOOZER」とかを読んで。なんか、あるんですよね、この年代の「名盤」とされているものが。「これは聴いたことないな」とか、アナログなDIGり方をしていて、中古CDショップでめちゃくちゃ買ってました。
──年齢的にはもうiPodがあった世代だと思うのだが。
Mom そうですね、iPodは使っていたと思うんですけど、CDを買って、それを取り込んで携帯型のプレイヤーで聴く、みたいなことですね。でも、家や車の中で聴くことが多かったかもしれないです。姉や兄がいて、両親も音楽を聴かないわけではなくかったので、斉藤和義さんや佐野元春さんとかの良質なポップスにも接してました。
──なるほど、環境がその音楽性を育んだのと同時に、自身も探求心溢れるだったということなのだろう。幅広い音楽性にも納得がいく。参照項がそもそも多いのだ。それでは、現在のスタイルに至るまでの過程はどのようなものだったのだろう?
Mom バンドは凄くやりたかったんです。ギタリストに憧れてて。で、中学くらいって、楽器始めるヤツがいっぱいいるじゃないですか? いつの時代にも絶対に楽器持つ人が現れるじゃないですか(笑)。それで「こいつドラムやってるらしいよ」とか他のクラスのヤツを捕まえたりして。一応カタチとしては集めてスタジオ入ったりとかもしたんですけど、中学生なんで、まあヒドくて(笑)。期待していたものとは違って、思うように合わせられないと言うか「全然楽しくない」って(笑)。自分が思い描いていたものとは違って、そっからは、普通にコピーってよりは、自分でカッコいいリフを探したりとか、ちょっと歌詞書いて、作ってみたりというのを、中学3年くらいから高校くらいまでやってました。高校1年の春ぐらいから、iPhoneのGarageBandを使って、録り始めました。なのでバンドらしいバンドは、ほぼ組んでないですね。GarageBandは感覚的に操作できるのが好きです。ちょうどそれで曲作り始めたくらいから、ブラックミュージックとかヒップホップがカッコいいって感じるようになりました。思い描いていたバンド像から、ちょっと一回ドライな気持ちになるというか、「こうじゃないのかも、俺」という、気づきみたいなのがあったんですよ。そういう時に、チャンス・ザ・ラッパーのミックステープ『Acid Rap』がめちゃくちゃ評価されてて、「あ、こういう人、いるんだ」って。彼は、アルバムを出してないんですけど、音源をフリーで聴けちゃうのを「こういうのがあるんだ」ってなって、ミックステープ文化からヒップホップにのめり込んでいったんです。バンドマンはない感覚を持っていて、新鮮でした。
──GarageBandを使うメリットはどんなところにあるのだろう。
Mom ふと、アタマに浮かんだものとか、ベッドで寝転んだりしていたときに「あ、このフレーズいいな」とか「この音試したいな」とか思ったら、起き上がってすぐ作業できるのは楽ですし、自分のアタマに描いたものをすぐに新鮮な状態で、そのままぶつけられるというのが良いですよね。
──最近はiOS用のではなくMac用のGarageBandがメインとのことだが。
Mom iPhoneのGarageBandはデモっぽくなっちゃう気がするんですよ。音を一応残しとこうみたいな、質感になるというか、全体のミックスバランスにも満足しきれない部分が出てきてしまって。さっきも言った通り、iPhoneのGarageBandはサッと手で操作できるからいいと思うんですが、本格的に作るとなった時に、MacのGarageBandの方が格段に音が良くて。音色の種類もめちゃくちゃ多いですよね。そこの幅はすっごい広がりました。ヴォーカルもちゃんと前に出てくれるし、劇的に変わりましたね、音は。ミックスとかもiPhoneのGarageBandは多分、未だなくて、イコライザー的なものも低・中・高音の3段階の調整だった気がするので細かいEQとか作業は格段にしやすくなりました。そこの違いは大きいですね。作品の質感にも影響してて、結構変わってますよ。iPhoneのGarageBandで制作した配信アルバムもMomって名前で過去に一枚出してて、それの音は全然違います。『Boyfriend』っていう曲は、iPhoneのGarageBandで作ったバージョンがあって、質感が結構違う。iPhoneのGarageBandはバスの音とかひとつとっても、ぼんやりしているんですけど、Mac版だと音が全体的にシャープに聞こえる気がします。GarageBandは海外のアーティストで使っている人が多くて、これでしか出せない質感てあるんでしょうね、やっぱり。独特のローファイさは、これじゃないと出ないと思います。他では真似できないと思います、この音は。
──前述の通り、楽曲だけでなく、ビジュアルも手掛けているのだが、それらの制作にもiPhoneやMacが活用されているのだろうか。
Mom 詞を書くのも完全にiPhoneです。いいフレーズがあったら軽くメモしたりとか、基本はMacイジって曲つくりながら、iPhoneで歌詞を書いてくのが同時、というのが多いですね。グラフィックのデザインもiPhoneです。iPhoneは、いっぱいアプリがあるじゃないですか。そのなかで「これよさそうだな」というのを選んで色々自分で試してみて、ずっと使ってるのが、「アイビスペイントX」です。自分で撮った写真とかセルフィーをコラージュみたいにして、たまにInstagramにあげたりしているんですけど、それもiPhoneで全部。切り貼りできるアプリも沢山あって、いろいろ駆使して作ってますね。MVは自分で全部つくっているのもあるんですけど、監督さんにお願いして撮ってもらって、いっしょにアイデア出し合ってというのが多いです。絵とかは自分で描くんですけど。
──監督に依頼してるとは言うが、MVには明らかに自身で作った素材が含まれている。
Mom 素材を描いてお渡しして、好きに遊んでくださいみたいなことで進めてますけど、まず、ヘンテコなのが好きなんですね、遊び心があるのが。ユーモアはすごく大事。
──歌詞にもユーモアのセンスが感じられ、それが同時代性と90年代的な匂いを醸し出す。
Mom それはちょっと意識的に、「くだけた言葉を使ってみよっかな」って感じで入れていて、絶対に今の人しか使わない言い回しとかあるじゃないですか、符割なんかもそうなんですけど、それはもうバンドというスタイルだとあんまりできないのかなと思うし、ヒップホップの流れがあってやれることだと思うので。くだけた表現とか自由さみたいなのを大事にしてますね。
──リリックは日本のメインストリームのヒップホップの人たちとは違っていて、とても独特なポジションを獲得しているように思える。
Mom 自分が単純に「そういうの」ができないっていうのがありますね。ヒップホップでは「レペゼン」ってキーワードがありますけど、自分はあんまり性格的に「これ、こうなんだよ」みたいな主張が苦手というか、こっぱずかしくなっちゃうのが結構あって、そういうスタイルが合わないかなって。なので、折衷的になってるというのはあると思います。
──Momの決定的なユニークさはここにある。バンドの中の一人でなく、自分自身がフロントマンであるのに、妙な気恥ずかしさが纏わりついていると言うのだ。
Mom 音源を発表するのにネットを使ってたんですけど、本当にネットでしか知らない人に対して音源を聴かせるみたいな感じだったんです。自分のこと一切知らない人しかいないイメージ。自分のこと知らなければ全然恥ずかしくないんですが、それが身内とか家族とか友達とかになってくると、途端にめちゃくちゃ恥ずかしくなるっていう(笑)。どこか自信のなさがあるんでしょうね、自己肯定感の低さみたいなのがあって、それだから音楽を作るんだと思います。おかしな話なんですけど、本当は自分の自己肯定感高めてくれるはずのものなのに、それが自信なくて。
──歌詞にも時折、このようなアンビバレントな感情が顔を出す。そこで生み出されるのは人を突き放すようなものではなく、人懐っこさを感じさせるものなのだ。
Mom 乖離しているのかもしれないです、そのほうが、自分はドギマギしないというか、ちょっと「ドライではありたいな」というのがあるのかなとは。「俯瞰して見る」ところもあるし、「自分のパーソナリティとは離して詞を書く」みたいなところはあるのかもしれないです。
──話題を変えて、大学生活について訊いてみたところ、なるほどと腑に落ちる答えが返ってきた。
Mom 先生になる人が多い大学に通っています。音楽とあまり関係なくて、心理学科です。人が何を考えているかとか「この人、どういう人なんだろう?」とかってことに興味を抱いてるんですよ。人間観察が昔から好きで。もちろん入りたくて入った大学ではあるんですが、性質的にだらしなくて、身になっている感じはしないですけど(苦笑)。ただ、カウンセリングの授業とかは、人と日常のコミュニケーションをとるにあたって、こちら側のスタンスみたいなのは凄く勉強になります。結局、音楽も「人」対「人」で、自分がどう見えているかをすごく意識するとは思うので、その点では他者にどう思われるかを考える場としては良いのではないかと。
──自分の作品を見たり聴いたりしてくれる人がいるという前提で、リスナー/オーディエンスを大切にしてる印象があったのも、こういった背景があってのことなのだろう。
Mom 大切にしているというと良い話に聞こえますが「聴かれたい!」っていう、そういう熱量はメチャクチャあります、そこがないと、作る意味もないかなと思っちゃうし、自分のやりたいことはそこに直結しています。「尖ってるけど広く聴かれるもの」って一番イケてると思うので、前提として人に聴かれるものというのが大事なのかなと思っています。
──その中で生まれてきた「クラフト・ヒップホップ」というキャッチフレーズについては、こう答える。
Mom 最初はローファイ・ヒップホップとか言っていたんですけど、既にあるジャンルだったんですよね。共感できるところも多かったので、それでも良いのかなって思ってたら、人から、「ローファイってチープに聞こえちゃう部分があるんじゃない?」と言われて、「うーん、そうなのか」となって、じゃあ他の人が使ってないような、何か、自分のスタイルをうまく伝えられるジャンルを作ろうと思ったんです。それで「クラフトって、なんかいいな」って。クラフト・ヒップホップって、元からあったみたいな、すごく言いたくなる言葉だなって特に「こういうジャンル」とかは考えていないんですけどね(笑)。
──Vaporwaveの精神とも通ずるところがあるとも感じた。発信も含めて、今となっては自分で全部できてしまうが、例えばレコードメーカーや事務所と組むメリットを訊いてみると……。
Mom メリットあると思います。音楽以外に自分でやらなきゃいけないことがどんどん増えてきて、ブッキングとか、ライブの依頼とか、単純に自分だけのチカラでは追いつかなくなってきて、音楽制がおろそかになっちゃうみたいなところがあったんですね。自分はずっと音楽だけ作って、その音楽を人にどう届けるかということに集中したいんだけど、それ以外にやらなきゃいけないことも多くて。スケジュール管理とかめちゃくちゃ苦手で、「あ、わかんない」ってなってて、音楽だけに集中したいので、そこを全部委ねちゃえるというメリットは絶対にあります。
──成程、アウトプットの部分をやはり大切にしたいということなのだろう。では、インプットのほうは最近どうしているのか? 相変わらず中古CDをDigっているのか?
Mom 情報収集は、やっぱりTwitterとかですね、流れてきて話題のものとか聴いたり。Apple Musicを使っているので、芋づる式にいいアーティストが繋がって出てくるので。一昨年くらいから利用し始めて、レコードショップにはあまり行かなくなりました。それまではCD収集家みたいな感じだったんですが、めちゃくちゃ家にあるし、CDそのものが好きで買っていたんですけど、もう、(ストリーミングサービスが)便利すぎて。出会いの選択肢がほぼ無限じゃないですか、やっぱり。モノが今でも好きなので大事ですけど、便利ですね、世界が変わりました。
──Digりの方法が変わって制作スタイルも変化したのだろうか。
Mom したと思います。リアルタイムな音楽を聴く数が圧倒的に多くなって、以前は全然新譜を買わなかったんですが、今はクリエーションにも必要。それにやっぱり聴きたいじゃないですか。何が盛り上がってるのかとか、それを自分のアウトプットに反映させている人の方が良いアーティストだと思うし。なので、すごくリアルタイムな感覚は、Apple Musicとか、サブスクリプションありきになってます。それと、Apple Musicは学生に優しいのかな。ひとりでも追っかけているアーティストがいれば、入っているほうがおトクだと思います。その一方で、音源買って欲しいってのはあります(笑)。音源を売るのが主体ではないって流れはありますけど、そこは頑張りたいです。CDとかレコード、カセットとかも、コレクション・アイテムとしての魅力が逆に出てきていると思うので、そういうのもちゃんと注目しつつ、色々うまく使っていきたいと考えていて、ビジュアルは絶対ありきで、その人自身を好きになってもらえるかどうか。その中で、ジャケットとかアートワークとかも含めた第一歩として、「聴いてもらえるか」というのがすごく大事なのではないかと。
──今回のAppleのCM起用について伺ってみた。どういうところが決め手になったのだと思う?と質問したところ……。
Mom もちろん、GarageBandを使っての制作ってのはあると思いますが、そうですね……僕はDIY的なことかなと。自分で主体的に何かを発信しようとか、表現しようという人に向けてだと思うんです、多分。CMで声がかかった他の皆さんもそうなのではないでしょうか。
「Macの向こうから」キャンペーンは、これで3シリーズ目となるのだが、世界を変えるであろうクリエイターが登場するというコンセプトは一貫している。Momをフィーチャリングしたバージョンでは、本人のナレーションと共にこのCMの為に書き下ろした新曲『Boys and Girls』が流れる構成になっている。
その『Boys and Girls』も本日22日よりApple Musicをはじめとした音楽配信サービスで聴けるようになっているので、是非、チェックしていただきたい。
今後の活動はこのシングルに続いて、5月にセカンドアルバムのリリースが予定されている(現時点でタイトル未定)。また、6月14日には東京・渋谷のShibuya WWWでそのニューアルバムの発売記念パーティの開催が決定している(開場:19時/開演:19時30分 チケット:税込2,800円 本日より3月3日23時59分まで、抽選でのチケットオフィシャル先行受付を行っている)。そのほかのライブ情報はMomのオフィシャルサイトをご覧いただきたい。TwitterやInstagramにも公式アカウントがあるので、あわせてそれらもチェックしてほしい。
最後にMomが作ってくれたプレイリストを紹介しよう。リンクはすべてApple Musicだ。このプレイリストからもMomの幅広い音楽性が伺える。
Still Woozy / Habit
Tobi Lou / Game Ova
Vampire Weekend / 2021
Choker / Dualshock
Ski Mask The Slump God / Cat Piss
MJ Cole / Bandelero desparado
Death Grips / Birds
Dessert Sessions / I Wanna Make It Wit Chu
Big L / Holdin' It Down
Radiohead / Subterranean Homesick Alien
Joji / CAN'T GET OVER YOU
Mom / Boys and Girls
Animal Collective / My Girls
Kid Cudi / Young Lady
Little Simz / 101 FM
JPEGMAFIA / Thug Tears
BROCKHAMPTON / SOMETHING ABOUT HIM
Jamila Woods / GIOVANNI
Jaylien / Old Friends
XXXTENTACION / F **k Love