Wi-Fi RTTとは、無線LAN回線を利用してラウンドトリップタイム(Round Trip Time、信号を発信してから応答があるまでの時間)を測定することで、おもに屋内における位置測定を目的とした技術をいいます。IEEE 802.11mcとして規格化され、Android 9.0/Pieに採用されました。
この規格による位置測定では、IEEE 802.11mcに対応したWi-Fiアクセスポイントと、スマートフォンなどのWi-Fi端末を利用します。Wi-FiアクセスポイントとWi-Fi端末の間でRTTを測定することで物理的な距離を測り、Wi-Fi端末の位置を推定しますが、3つ以上のWi-Fiアクセスポイントと測定すれば正確性を高めることができ、1〜2メートル精度での位置測定が可能になります。
現在のスマートフォンを利用した測位システムは、GPSにくわえてセルラー回線の基地局を利用したA-GPS(Assisted GPS)が主流ですが、GPS信号の受信が難しい屋内では利用できません。Wi-Fi RTTではGPSにもセルラー回線にも依存しないため、信号を通しにくい建物内部や地下でも測位が可能です。Wi-Fiアクセスポイントに接続(ログイン)する必要もないため、セキュリティやプライバシーの問題は発生しません。
具体的な用途としては、屋内ナビゲーションが挙げられます。これまでの技術では正確な現在位置の取得が難しかったため、見本市のように屋内で行われるイベントではブースの案内ができませんでしたが、Wi-Fi RTTを使えばそれが可能になります。音声コマンドの対象となる家電を位置情報から判定する、といった活用も想定されています。
2018年12月現在、IEEE 802.11mcをサポートするルータなどの無線LAN機器はほとんど製品化されておらず、スマートフォン側での対応もAndroid 9.0を除けば進んでいないため、普及までには数年程度の時間がかかることが予想されます。