東京医科歯科大学(TMDU)は、胃がんにおいて、ヒストン修飾に関わるPRMT6が活性化し、がん抑制遺伝子のPCDH7が不活化していると発見したと発表した。

同成果は、同大大学院医歯学総合研究科 分子腫瘍学分野の田中真二 教授、秋山好光 講師、島田周 助教、奥野圭祐 大学院生と、ウイルス制御学の山岡昇司 教授、低侵襲医療学の小嶋一幸 前教授(現・獨協医科大学第一外科主任教授)らの研究グループによるもの。詳細は、国際科学誌「Carcinogenesis」に掲載された。

ヒストン修飾はエピジェネティックな遺伝子発現機構の一つで、その異常はがん・生活習慣病など多くの疾患の発生に重要な役割を果たすことが知られている。

同研究では、ヒト胃がんの臨床症例を用いた解析の結果H3R2me2asレベルとその主要酵素であるPRMT6の発現が共に胃がんで亢進していることを確認したという。また、臨床的には高H3R2me2asレベルは胃がんの独立した予後因子であり、かつ両方の発現が強い胃がんは再発しやすく死亡する割合が高いことを見出した。

  • 胃がん組織におけるH3R2me2asとPRMT6の発現

    胃がん組織におけるH3R2me2asとPRMT6の発現(出所:TMDU Webサイト)

また、ヒト胃がん細胞でPRMT6安定発現細胞株を作成したところ、H3R2me2asのレベルが亢進し、腫瘍細胞の遊走能や浸潤能が亢進した。一方、ゲノム編集法を用いてヒト胃がん細胞でPRMT6をノックアウトしたところ、H3R2me2asのレベルが減弱し、腫瘍の増殖能や遊走能、浸潤能および造腫瘍能も低下したという。

  • PRMT6ノックアウト胃がん細胞を用いた機能解析

    PRMT6ノックアウト胃がん細胞を用いた機能解析(出所:TMDU Webサイト)

遺伝子の活性化にはヒストンH3の4番目リジン(K4)のトリメチル化(H3K4me3)が強く相関しているとされる。今回、胃がん細胞においては、PRMT6発現が強くなるとH3R2が特異的に非対称性メチル化され、H3K4me3レベルが減少することで、遺伝子発現が抑制されることが明らかになったとのことだ。

  • PRMT6高発現と遺伝子発現抑制のメカニズム

    PRMT6高発現と遺伝子発現抑制のメカニズム(出所:TMDU Webサイト)

これらの結果から、胃がんにおいて、H3R2me2asはPRMT6発現と正の相関にあること、および予後予測のバイオマーカーになる可能性が示唆されただけでなく、PRMT6-H3R2me2as経路によってがん抑制遺伝子のPCDH7が不活化していることが突き止められた。また、研究グループは、胃がんで発現亢進しているPRMT6を抑えることによって悪性度や造腫瘍性が抑えられたという成果は、PRMT6異常を標的とした新規治療法開発につながることが期待できるとしている。