2001年からスポーツカーレース「ポルシェ カレラカップ ジャパン」を日本で開催しているポルシェ ジャパン。スポーツカーやレーシングカーのメーカーである同社は、積極的にモータースポーツ活動を行う企業としても有名だ。

11月30日に開催された同社のプレスカンファレンスでは、2019年に展開する予定のモータースポーツ活動計画が発表された。そこで話されたのは「カレラカップ ジャパン 2019の継続開催とスケジュール」「GT4車両を使った新シリーズのスタート」「若手レーシングドライバー育成プログラム」「eスポーツ大会の開催」といった内容だ。

カンファレンスにおいて、ポルシェ ジャパン 代表取締役社長の七五三木敏幸氏は「モータースポーツはポルシェのDNA。従来、モータースポーツに特化したプレスカンファレンスは行われていませんでしたが、今回このようなカンファレンスを開催したのは、世界各国のポルシェのフィロソフィーであるモータースポーツ活動に、今後も力を入れて取り組んでいくということを改めてご説明したかったからにほかありません」と、カンファレス開催の経緯を説明した。

ポルシェ ジャパン 代表取締役社長の七五三木敏幸氏

発表された内容のなかで注目したいのが、eスポーツへの参入だ。

七五三木氏は「eスポーツは国際自動車連盟(FIA)も取り組みを強化しているところで、自動車のカテゴリーについては『E-Racing』と呼ばれています。各国のポルシェではXboxの『Forza Motorsport』を使った取り組みを展開していますが、日本ではプレイステーション4の『グランツーリスモSPORT』を使用する予定です」と、世界的に注目されている領域であることを説明する。

具体的な内容は追って発表されるとのことだが、2019年中に「Porsche E-Racing Japan」として、ワンメイクE-Racing大会を開催する予定だという。

リアルモータースポーツと同様のおもしろさがあるE-Racing

カンファレンスでは、『グランツーリスモ』シリーズの開発を手がけるポリフォニー・デジタル 代表取締役の山内一典氏がゲストで登場し、七五三木氏とE-Racingについて意見を交わした。

以下、両氏による「E-Racingとリアルモータースポーツ」のトークセッションの内容を紹介しよう。

ポリフォニー・デジタル 代表取締役の山内一典氏

山内氏「6年ほど前にFIAから、未来のモータースポーツの1つの在り方を考えたいという話がありました。5年かけて『グランツーリスモSPORT』というタイトルを作り、ようやくeスポーツと呼べるようなイベントを開始することができました」

山内氏は、まず『グランツーリスモSPORT』の開発経緯について説明する。そして、完成した同作を用いて、FIAはE-Racing大会「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」を2018年に開催した。この大会は、国・地域どうしで勝利を競う「ネイションズカップ」と、マニュファクチャラー(自動車メーカー直営チームのこと)どうしで勝利を競う「マニュファクチャラーシリーズ」の2つのカテゴリーで行われた。

山内氏「ちょうど先日モナコでチャンピオンシップのワールドファイナルが行われました。ドライビングシミュレーターの精度などには自信を持っていましたが、実際にどのようなレースが行われるかは未知数。実際の大会を見ると、まさに“そのままモータースポーツ”が行われていると感じました。これは僕らにとっても驚きでしたね」

七五三木氏「我々としてもポルシェのDNAをE-Racingで活かすことができる考えているので、モータースポーツの一分野として取り組んでいく予定です。ほんのわずかな操作の違いで大きな差がつくあたりも、実際のモータースポーツと変わりないのではないでしょうか」

山内氏「設定を変えれば、通常2時間3時間の耐久レースでないと生まれないような戦略を15分程度のレースで求めることもできます。本物のモータースポーツを凝縮したドラマチックなレース展開を楽しむこともできるでしょう」

七五三木氏「日本人プレイヤーのレベルは高いのでしょうか?」

山内氏「高いですね。国別の大会では、アジアオセアニアリージョンで上位を占めました。また、マニュファクチャラーシリーズでは各チームのトップドライバー3人が組んで耐久レースを行うのですが、どのチームにも必ずと言っていいほど日本人選手が入っています。それほど、日本人ドライバーのレベルは高いのです」

今回ワールドファイナルに進出したのは、グローバルランキングトップ16のマニュファクチャラーだ。それぞれのメンバー構成を見ると、16チームすべてに日本人が入っていた。ちなみに、マニュファクチャラーシリーズの初代優勝チームに輝いたのはレクサス。2位がトヨタで3位がアストンマーティンだった。

そして次に、実際のモータースポーツとE-Racingの共通点について話題が移る。

山内氏「ドライビングテクニックや駆け引きなどは、リアルのモータースポーツと同じものを学べると思います。プレステ4と専用コントローラがあればできるのでエントリーしやすく、これからモータースポーツを始めようと考えている人にも向いているのではないでしょうか」

七五三木氏「山内さんがおっしゃるように、極限まで集中力を使うという意味で両者は全く同じ。入門としてはすばらしいと思います。たくさんの人にモータースポーツを体験してほしいですし、シミュレーションでポルシェえお味わってほしいですね」

山内氏「リアルのドライビングの世界も、ある種イマジナリーなものです。目の前の景色やステアリングの変化などを認知してから次の操作に移るまでには、時間的な遅れがあります。つまりは、実際の運転でも未来を予測しながら操作をしているわけです。そのフローはリアルもバーチャルも同じで、それをいかに自分の体へ染み込ませられるかが速く走るコツでしょうね」

七五三木氏「サーキット走ったとき、とことん疲れてこれ以上運転したくないという気持ちになるのですが、eスポーツでも同じなんでしょうね。2019年は我々もeスポーツについて強力な取り組みをしていきたいと考えています。ぜひご期待ください」

七五三木氏の言葉に加えて、ポルシェジャパンが初めて開催した「モータースポーツ活動の計画を発表するプレスカンファレンス」において、ゲストに山内氏を呼び、トークセッションを行うことからも、同社がeスポーツに本腰を入れて取り組んでいくという姿勢がうかがえた。

eスポーツは、格闘、パズル、スポーツ、MOBA、FPSなど多ジャンルに展開しているが、ポルシェやFIAなどが注力し、その体験においてもリアルスポーツとの垣根が特に低い「E-Racing」は、eスポーツ全体の起爆剤としても期待したいところだ。

(安川幸利)