ファイルメーカーは11月7日〜9日まで、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで「FileMakerカンファレンス2018」を開催している。業務効率化を実現するカスタム App開発環境として人気を集めるFileMakerだが、今回開催されたセッションでは新たな方向性が打ち出されることとなった。

日本はFileMakerにとって重要な市場

オープニングセッションでは、ファイルメーカーのビル・エプリング社長により、FileMakerを取り巻く環境が紹介された。同社は創業から35年となる、古くからのMacユーザーにとってはおなじみなのだが、Windowsユーザーにとっては、その存在がまだ浸透していないかもしれない。

  • すっかりおなじみとなったビル・エプリング社長

  • 「An Apple Subsidiary」(Appleの子会社)という言葉の入ったロゴ。最近やたらとAppleの子会社であることを強調している節がある

エプリング社長は「『FileMakerってどんな会社だろう、導入しても大丈夫なんだろうか』という不安を持っているかもしれない」と前置きしつつ、同社がAppleの100%子会社であり、主力製品であるデータベースソフト「FileMaker Pro」は世界で100万以上のサブスクリプションユーザーを抱え、iOS用クライアント「FileMaker Go」はビジネス向けアプリとしては異例の400万ダウンロードを達成する人気製品であることを紹介。また、FileMakerの導入やカスタムアプリケーションを開発などを手掛けるデベロッパーは世界に5万社以上を数え、さまざまな要求に応えることができるので、自信を持って導入してほしい、とした。

  • 日本は米国に次ぐ第2位の市場ということもあって、日本からのフィードバックが重視されていることも紹介された

その後は米FileMakerのプラットフォームエヴァンジェリズム担当ディレクターであるアンドリュー・ルケイツ氏により、将来のバージョンで計画されている新機能などのスニークプレビューが行われた(内容についてはNDAのため割愛)。

カスタム Appからワークプレイス・イノベーション・プラットフォームへ

続いて行われたスペシャルセッションでは、前出のアンドリュー・ルケイツ氏から「ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム~ FileMaker の新しいカテゴリー」と題して、FileMakerが今後目指していく方向性についての説明があった。

  • アンドリュー・ルケイツ氏

ルケイツ氏は「カテゴリーというのは、『何のためのソフトか』という定義のこと」とし、親会社であるAppleがカテゴリーを定義することが非常に上手い企業であることを引き合いに出し、正しいカテゴリーの定義は製品作りを正しい方向に導くものであり、マーケティングの基本だ」と指摘。

その上で、「FileMaker Pro」は、80年代の登場当初はカード型データベースだったが、90年代にはリレーショナルデータベース、クロスプラットフォーム対応、そして2000年代以降はクラウドやモバイル対応へと進化を続けてきた。そして次なる時代に向けて、新たなFileMakerの定義が必要だ、とした。

講演の内容を大きくまとめると、今現在、FileMakerはデータベースというよりはカスタム Appの開発環境という側面が強く前面に押し出されている。しかし今後は仕事環境(職場・現場)の問題を解決するためのプラットフォーム、「ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム」であることをアピールしていく、ということになる。Mac、Windows、iOS、さらにはWebアプリといった広い対応プラットフォームに加え、オンプレミスからクラウドまで、広く対応できるFileMakerは、もはや開発環境という言葉では収まらないということなのだろう。

  • 大きく強調されたキャッチフレーズとして登場した「ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム」。日本語に訳せば「現場改革を支えるプラットフォーム」とでもなるだろうか

  • アプライアンスAPP(市販のアプリ)とエンタープライズシステムの隙間を埋める存在である、という点においては従来のFileMakerの位置付けと変わりはないが、全体としてはアプリ単独では終わらせない、という意思を感じさせるものがあった

実際、今回の公演の中で、ほとんど「カスタム App」という単語が使われなかったことからも、アプリという限られた範囲にとらわれず、広く業務環境を改善するための製品であることをアピールしたいという意思が読み取れた。また、AWSとの連携やRESTful APIのサポートなど、FileMaker単独ではなく、Webサービスやクラウドとの連携を前提とした利用もアピールされており、FileMaker自体をアプリというよりはサービスとして認識させていきたいのかもしれない。

IoTとの連携も強化

カンファレンス会場では数カ所に分かれて講演や技術的な発表が行われるほか、ショウケース会場では公認デベロッパーを中心としたスポンサー企業によるミニブースの展示や、ミニステージでのプレゼンテーションも行われている。

  • セッションと並ぶ目玉企画であるショウケース会場は多くの企業がカスタム App環境などを展示している

  • 実際にiPadにインストールした形で触れるアプリも多数展示されていた

ショウケース会場では従来通りカスタム環境の開発を請け負う企業に加えて、IoTとの連携も興味深いものがあった。FileMakerと連携できるIoTセンサー機器が京セラやKCCSモバイルエンジニアリングなどから登場しており、これらのセンサーを使って工場内などの監視システムを手軽に構築できる。今後対応センサーが増えればさらにさまざまな利用法が広がることになり、大いに期待できる。

  • OCRとの組み合わせで手書きの注文書読み取りや帳票作成を自動化できる「HeartCore Robo」。FileMakerと組み合わせることで、少人数な組織でも大量の受注を処理できるという

FileMakerは柔軟で開発が容易な点が長所だが、なかなか社内から開発スタッフを捻出するのも難しい。そんなときにFileMakerの開発を行うデベロッパーが大いに役立つはずだ。現在の業務をさらに効率化させたいという悩みを抱えているならば、こうしたデベロッパーとの出会いの場ともなるFileMakerカンファレンスに足を運ぶことをお勧めしたい。現場の悩みを解決するきっかけがきっと見つかるはずだ。