ワイヤレス(Bluetooth)の勢いが止まらないイヤホンですが、「音質」に改良の余地があることは確かです。メーカー各社は音質に挑むべく、オーディオデータを圧縮/展開するソフトウェア(コーデック)により高性能なものを求めたり、アンテナの位置を工夫して信号の安定性を高めたりしていますが、特にインナーイヤー型の場合「(耳の穴に入れるため)サイズによる制約」という悩ましい問題がつきまといます。インナーイヤー型のワイヤレスイヤホンには、限られた空間と物量の中で最適解を導き出すことが求められているのです。

SHUREが10月26日に発売する「RMCE-BT2」は、Bluetooth接続のワイヤレスイヤホンに新しい音質アプローチを試みました。その方法とは「MMCXコネクタを利用したケーブル」であることと、「独立したヘッドホンアンプ」を搭載すること。この2点をうまく生かすことにより、インイヤーモニターの先駆者であるSHUREらしい製品が誕生しました。MMCX接続で、イヤホンをBluetooth化できるワイヤレスケーブルの第2弾となる「RMCE-BT2」です。

  • MMCX接続で、イヤホンをBluetooth化できるワイヤレスケーブル第2弾「RMCE-BT2」。音質はワイヤレスを超えたレベルにありました

MMCXコネクタにこだわるSHURE

製品の発売に先立ち実施されたメディア向けガイダンスは、SHUREがなぜMMCXコネクタを採用したかについての説明から始まりました。同社では2006年発売のイヤホン「SE530」からイヤホンのモジュラー化を進めており、「イヤホンケーブルの途中にマイクを追加できるなど、SHUREの着脱可能なイヤホンの原点になっています」と、イヤホン本体を完全に着脱可能なMMCXコネクタのプラットフォームを採用する現行のイヤホン「SEシリーズ」の歴史を披露しました。

  • SHUREのオーディオリスニング用イヤホンの歴史は、1997年発売の「E1」にまで遡ります。E1は、ワイヤレスイヤーモニターシステムの付属品として作られたそうです

MMCXを採用した理由として、SHURE リスニング製品 シニアプロダクトマネージャーであるショーン・サリバン氏は、「断線などのトラブルが生じても簡単に交換でき、アクセサリーパーツも供給しやすい」ことを挙げ、高価な製品だからこそ長く使えることを重視したと説明しました。さらに、「ケーブルをいろいろな種類から選択できるようになり、ケーブルを変えることで音質を向上させられる」と、現在SHUREが掲げるキャッチコピー「Connect with what Connects You!(つながる、ひろがる、自分の世界)」の世界観についても紹介しました。

  • SHUREのリスニング製品 シニアプロダクトマネージャーであるショーン・サリバン氏

  • SHUREのシニアプロダクトスペシャリストであるトーマス・バンクス氏

これまでSHUREは、Lightning端子を備えた着脱ケーブル(RMCE-LTG)や、USB Type-C端子を備えた着脱ケーブル(RMCE-USB)のほか、Bluetoothでデバイスとのワイヤレス接続を可能にする着脱ケーブル(RMCE-BT1)を販売してきました。今回発売となる「RMCE-BT2」は、SEシリーズなどMMCX端子を備えたイヤホンをBluetooth化できるワイヤレスケーブル「RMCE-BT1」の音質を向上させた後継/進化版となります。

ヘッドホンアンプをSoCの外側に

MMCX端子を備えたワイヤレスケーブルは、すでに多くの企業から発売されていますが、SHUREはRMCE-BT2でほかに類を見ない音質アプローチを行いました。それが、「SHURE独自設計のヘッドホンアンプ」です。SoC内のヘッドホンアンプ部に増幅処理を委ねず、SoCの外に高性能ヘッドホンアンプチップを配置し、SoC内部のDACから出力するという設計を採用したのです。

  • RMCE-BT2のレシーバー部。SoCの外部にヘッドホンアンプを配したことが特長です

一般的に、MMCXケーブルタイプを含むBluetooth接続のワイヤレスイヤホンは、通信用チップやDAC、アンプ(ヘッドホンアンプ)をコンパクトにまとめたSoC(モジュールと呼ばれることもあります)に音声信号処理のほとんどを任せます。「オーディオシステムの音を決めるのはアンプとスピーカー」と言われますが、音声信号の増幅を行う以上、イヤホンも事情は変わりません。RMCE-BT2の開発チームは、そのアンプ部分に着目したというわけです。

まるで有線で聴くような音質

ガイダンス終了後、Bluetooth対応のコンパクトなハイレゾ対応DAP「SHANLING M0」を使い、RMCE-BT2にSHUREの有線イヤホン「SE846」の本体を接続したもので試聴しましたが、音の輪郭の明瞭さを実感しました。スネアのアタックは速やかに収束し、不自然な余韻を残しません。aptXで接続したこともあってか、中高域にかけての情報量も豊富で、サウンドステージも広々としています。有線のSE846を聴いたときに近い印象です。

ワイヤレスイヤホンで課題となることが多い低域の描写もひと味違います。ベースは量感がありつつも不自然さはなく、スピード感を楽しめます。これもアンプの駆動力の高さゆえでしょうか。

なにより感動したのは、ノイズの少なさです。SE846のように高感度/低インピーダンスなイヤホンの場合、ワイヤレスで使うとホワイトノイズが気になるものですが、RMCE-BT2ではかなり抑えられていました。

  • RMCE-BT2はコーデックとしてSBC/AAC/aptX/aptX HD/aptX LLをサポート。できればaptXかaptX HDで聴きたいところです

試聴後、ノイズが少ない理由をサリバン氏に訊ねたところ、「どのパーツをどこに置くかというアンプ部分のデザインを徹底的に検証した結果です。パーツ間のわずかな距離の違いで、ノイズが増えるようなことも基板設計では起こりがちですが、そういった部分にこだわりました」と語ってくれました。

SE846との組み合わせについても、「SE846のフラットな特性は、低インピーダンスに由来する部分が大きいのですが、それを保つためにはヘッドホンアンプの出力インピーダンスも低くせねばなりません。我々が外付けのヘッドホンアンプにこだわった理由のひとつがこれで、SE846をワイヤレスで、しかもいい音で鳴らしたかったのです」と本音を漏らします。なるほど、有線でつないだときと近い印象だったことも肯けます。

MMCXプラットフォームだから実現できた、ワイヤレスケーブルという形でのイヤホンの進化。SE846など音質に定評ある(しかし高価な)製品を長く使い続けられるという点で、合理的というだけでなく、ユーザにとってのメリットも大です。SHUREはMMCXケーブル製品を充実させる方針とのことですから、今後の製品展開にも期待ですね。RMCE-BT2は本日(10月26日)発売。推定市場価格は18,800円(税別)です。

  • RMCE-BT2開発チームのトーマス・バンクス氏(左)とショーン・サリバン氏(右)