eスポーツの急速な拡大に寄与しているものの1つに、動画配信サービスがある。世界各国のeスポーツ大会のライブ配信や、ストリーマーとして活動する選手の動画などを視聴できることから、手軽にeスポーツと触れられるツールだといえよう。配信動画がきっかけで、eスポーツに興味を持つようになった人も多いのではないだろうか。

その中で、いち早くゲーム専用の動画配信サービスとして立ち上がったのがTwitchだ。現在ではゲーム以外の配信もしているが、ゲームの動画配信サービスとして、トップランナーの1つであることは間違いない。

東京ゲームショウ2018では、Twitchブースの出展に合わせて同社 シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏が来日。インタビューの機会を得たので、日本での実績や今後の展開などを聞いた。

東京ゲームショウ2018のブース出展に合わせて来日したTwitchの面々

――Twitchでは、現在の日本市場をどのようにとらえているのでしょうか。

マイケル・アラゴン(以下マイケル)「視聴者数、視聴時間のどちらも伸びています。一度動画を視聴し始めると、長時間観る人が多いのが特徴ですね。だいたい100分くらいは観ていると思います。日本は視聴者数、視聴時間ともに世界のトップ3に入っており、高い水準を誇っています」

シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏

――日本におけるTwitch急成長の要因はなんでしょうか。

マイケル「Twitchは誰でも簡単に配信することができます。そして優れたストリーマーは、パートナーとしてアフィリエイトなどで収入を得ることができます。以前200人だったパートナーも現在では2000人。多くの優れたクリエイターがTwitchで良質なコンテンツを配信していることで、視聴者が増えているのではないでしょうか」

――日本での今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

マイケル「Twitchはゲームコンテンツを大事にしており、今後も力を入れていきます。ただ、それ以外のコンテンツも充実していく予定です。雑談であったり、散歩している様子であったり、料理をしているところであったり。例えば、先日アメリカ・ラスベガスでおこなわれた対戦格闘ゲームの一大イベントであるEVO 2018では、プロゲーマーのウメハラが個人で配信を行っていました。試合の様子だけを配信するのではなく、大会自体の様子、参加している選手の様子などを、多くの人に見せることができたと思います。このように、音楽やゲームを題材にしてトークする動画を増やしていきたい。コンテンツ自体にタグを付けられるので、それを使って観たい種類の動画を検索できるようになるでしょう」

日本ADセールス ディレクターのジョン・アンダーソン氏

――ゲームのストリーミング配信でeスポーツは外せませんが、人気のゲームカテゴリーは世界と日本で違いがあると思います。世界に配信するうえで、その点はどうお考えでしょうか。

マイケル「日本で人気の対戦格闘ゲームは、世界的に見ると人気のカテゴリーではないですが、世界に向けて対戦格闘ゲームを知ってもらうような施策も考えています。また、eスポーツ大会では、カプコンやバンダイナムコエンターテインメントに協力してもらっており、英語での配信も行っています。その結果、アメリカやヨーロッパで観られています」

――ストリーマーが配信をするときに言葉の壁が出てきますが、この点についてはいかがでしょうか。

マイケル「ミラー配信や日本語のコンテンツをクロスストリーミングするなど、日本のコンテンツを世界に発信できるようにしています。また、日本好きの海外視聴者が、自ら翻訳して配信していることもあります。ただ、日本のストリーマーがもっと手軽に海外へ発信できるシステムは考えていきたいですね」

――日本のコンテンツは海外で求められているのでしょうか。

マイケル「現状では、対戦格闘ゲームの人気はあまり高くありませんが、日本のプロゲーマーに憧れを抱いている人は多くいます。また、『鉄拳7』の大会はTwitchが開催しており、日本のコンテンツを世界にアピールしています」

――昨年、日本にTwitchの拠点ができましたが、そこで注力していることは何でしょうか。

マイケル「日本のTwitchのパートナーチームは、パートナーがより快適に配信できるように支援しています。また、日本のゲームメーカーに、動画配信をする場合はTwitchを使ってもらえるように働きかけています。先ほども言いましたがパートナーをはじめとするストリーマー、クリエイターを支援し、収入を増やすことで、良質なコンテンツを提供するのが目的。いずれは、日本のストリーマーを海外に連れて行くことも考えています」

グローバル コンテンツ デベロップメント ゼネラルマネージャーのケンドラ・ジョンソン氏

――Twitchには、オーディエンスが直接ストリーマーを支援する手段としてビッツ(いわゆる投げ銭)がありますが、これについてはいかがでしょうか。

マイケル「日本では珍しい文化だと思いますが、使っている日本ユーザーは増えています。ストリーマーの収入源の1つとなっており、その割合も小さくない。ビッツを提供するとストリーマーが直接お礼を言ってくれることもあるので、ユーザーとしてもうれしいのではないでしょうか。今後は、例えば、ビッツを払ったら何かしらの演出が起こるなど、よりビッツを得られるような施策も考えています。現在だと、そのストリーマーに払ったビッツの金額のトップ3などが表示されるようになっていますよ。また、ストリーマーには、よりビッツを獲得するためのノウハウをクリエイターズキャンプで指南しています」

――動画配信サービスとしては後発のTwitchですが、他のサービスに対してのストロングポイントやアドバンテージは何でしょうか。

マイケル「Twitchは、現在Amazon系列の会社なのですが、Amazonと同様にカスタマーを大事にしています。『クリエイターファースト』で、とにかくパートナーが多くの収入を得られるように考えています。サブスクリプションや広告、ビッツなどがそれですね。Twitchはグローバル企業なので、海外への発信ができるのも利点です。人気クリエイターがいて、おもしろいコンテンツがTwitchにはある。それによって、オーディエンスはTwitchを選んでくれるわけです。また、Twitchはライブ、インタラクティブが魅力。ライブでは相応しくない言葉をチャットやコメントに入れると表示できないようにしたり、Banしたりするように設計しており、オーディエンスが快適に視聴できるようにしています」

――クリエイター、ストリーマーにとって、動画配信を行うためのハードルは低いのですが、高度な配信を行おうとしたり、パートナーになろうとしたりする場合、いきなり難易度が上がってしまうと感じています。もう少し緩やかに段階を上がれるようにはならないのでしょうか。

マイケル「おっしゃる通り、初期段階を超えると次の段階はかなりハードルが上がっています。PS4ではシェアボタン1つで配信できますが、配信画面のカスタマイズはほとんどできず、機能も多くありません。画面をカスタマイズする場合などは、PCを使う必要があります。今後は、PCがなくてもカスタマイズできるように、コンソール向けにも機能を増やしていこうと考えています。また、それらを支援するためのクリエイターズキャンプもあります。加えてパートナーについてですが、確かにストリーマーからパートナーになるには、高いハードルがあるでしょう。ただ、これについては現状のままでいく予定。パートナーになることが難しいがゆえに、パートナーになったときの喜びが生まれてきます。それが重要だと思っているので」

動画配信サービスはコンテンツが重要であり、それを作るクリエイターやパートナーを大切にする「クリエイターファースト」の理念が、Twitchのベースにあることがわかった。

クリエイターが快適に活動するための収入を増やす施策は、配信者に信頼と安心を提供できるのではないだろうか。また、日本のeスポーツの中心カテゴリーである対戦格闘ゲームを世界に発信することについても考えてくれているようで、期待が持てる。ゲームメーカーや大会運営、選手、オーディエンスをつなげるゲーム系の動画配信サービスは、今後もeスポーツの発展に大きく寄与していきそうだ。

(岡安学)