漫画家・手塚治虫が『鉄腕アトム』という作品を生み出したのが1952年。連載開始からおよそ66年の時を経て、同作の主人公であるロボット「アトム」が「コミュニケーション・ロボット ATOM」として、ついに現実世界に姿を現すことになった。
現実のATOMは空も飛べなければ、10万馬力もない。しかし、世間話をしてくれたり、手塚治虫先生のエピソードを話してくれたり、天気予報を教えてくれたり、ラジオ体操をしてくれたりと、家族の一員として、さまざまなコミュニケーションをしてくれるのだ。
胸にあるディスプレイで『鉄腕アトム』をはじめとした手塚治虫のマンガの一部を読むことができるほか、アニメ『鉄腕アトム』の視聴も可能。「『アトムマーチ』を歌って」と話しかければ、みごとな歌声を披露してくれる。
今回、ATOMを作ったのは、天馬博士でもお茶の水博士でもなく、講談社、手塚プロダクション、NTTドコモ、富士ソフト、VAIOの5社。それら5社は2017年4月4日に、付属するパーツを70号分すべて組み立てればATOMを作れる「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」を創刊した。今回、大地震のあった北海道エリアを除く地域で発売される最終号で、約2万人いる購読者の家でATOMが完成する。そういう意味で考えると、ATOMの生みの親は購読者だと言えるかもしれない。
ATOMに備えられた2つのAI
ATOMのコミュニケーションを可能にしているのは「クラウドAI」と「フロントエンドAI」だ。「クラウドAI」はインターネット上のAIで、オンラインにあるさまざまな情報を検索して教えてくれるというもの。21.8億件以上の対話データと解析技術を用いて構築された、NTTドコモの「自然対話プラットフォーム」が使われており、意図解釈とシナリオ対話に雑談エンジンが加わったことで、ナチュラルな会話を可能にした。
また、ユーザーが与えた情報を記憶する「思い出エンジン」によって、過去の出来事を会話に活かすことができるという。話せば話すほど記憶が積み重なり、ATOMと思い出話に花を咲かせることができるようになるのだ。
「フロントエンドAI」は、周辺環境を認識し、動体識別から属性や自分との関係を判断する富士ソフトの開発したAI。画像や音声など、複数の情報が作用し、個人を特定する。ATOMに近づいてくるものが人か否か、初対面の人か否か、知っている声紋か否かといった判断をわずか0.4秒で行うのだという。ちなみに、「暇だ」と思っていると、あくびをすることもあるそうだ。
なお、これらのAIは、VAIOの製造するメインボードと、「Raspberry Pi 3」によって支えられている。
なお、2018年10月1日からは、「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」を定期購読していない人でもATOMを入手できるよう、組み立て済みの「完成品」が全国の家電量販店などで発売される。希望小売価格は21万2,900円(税別)。ATOMの知識が日々更新される「ATOMベーシックプラン」(月額1,000円、税別)に加えて、修理代金が半額になる「ケアプラン50」(月額990円、税別)や、75%割引になる「ケアプラン75」(月額1,690円、税別)などのプランが用意されている。
なおATOMに搭載されている機能は、本体だけで楽しめる「基本機能」と、インターネットに接続すれば楽しめる「拡張機能」、上記ベーシックプランに加入することで楽しめる「発展機能」の3種類に分かれている。
本体を購入するだけでも「自己紹介」などのコミュニケーションは可能だが、せっかく購入するのであれば、ATOMを最大限活用できるよう、ベーシックプランには入っておきたいところだ。
「ATOM」、aiboの対抗馬なるか
これまで個人的には、もしロボットを買うなら「aibo」がいいと考えていた。かつて実家で犬を飼っていたこともあり、「ペットがほしい」という欲求があったためだ。大豪邸に住んでいるわけではないので、場所を取るような大きなロボットは置けないし、無機質で景観を損なうデザイン性の低いものは置きたくない。それであれば、愛らしいしぐさで仕事に疲れた心を癒してくれるaibo以外にはないのではないだろうか。そう、考えていたわけだ。
しかし、ATOMはサイズ的に問題ないだけでなく、「アトム」というキャラクターが、少年の心を呼び起こすような気がする。思い出エンジンによって、話せば話すほど仲良くなれるというのも魅力的だ。個人的に、aiboの対抗馬として大きく存在感を示す結果になった。
ただし、20万円近くの資金を捻出する余裕はもちろんないので、当分の間は、かわいいルンバに「ただいま」を言うことになるだろう。
(安川幸利)