ドイツ・ベルリンで開催された家電見本市「IFA 2018」で、ソニーが新スマートフォンの「Xperia XZ3」を発表した。日本でも今後キャリア各社から発売されるだろう。製品は特徴的な機能を備えているが、やはりこれまでのソニーと戦略が代わり映えしないように見える点が気になる。

Xperia XZ3

2012~2013年ごろまでXperiaは、グローバルでもそれなりにシェアを獲得していた。現在は中国勢の伸長などで売上を落とし、市場での存在感が低下している。数量という意味では安価なラインアップが少ない点が挙げられ、新興国や中国といった市場でのシェアが低いことはあるだろう。ただ、上位モデルでも先進国市場で苦戦している。

その課題として端末そのものの問題が挙げられるだろう。Xperiaシリーズは、単独で見ればそれほど悪い端末ではない。しかし、どうにも市場性に対するアプローチが慢性的に不足しているのではないか、という点が気にかかる部分だ。

こちらは前モデルのXperia XZ2

デザイン追求という特長が、今度は足かせに

Xperiaは、初期から長年デザイン性を追求してきた。ソニーならではの独自色の強いデザインは、Xperiaとしては大事なポイントだろう。「iPhoneっぽい」デザインとは一線を画してきたのは間違いない。ただ昨今では、そのこだわりが裏目に出てきた面は否めない。

例えばディスプレイの大型化にともなう狭額縁化で、本体の横幅一杯までディスプレイを拡大し、ベゼルがどんどん細くなっていくトレンドの中であっても、Xperiaは、側面の指紋センサー一体型電源ボタンの"デザイン"のために、狭額縁化への対応が遅れた。

デュアルカメラも各社が一般的に搭載している中、ようやく前モデル、しかもバリエーションモデル1機種での対応にとどまっている。画面上部の「切り欠き(ノッチ)」についてもそうだ。

iPhone X以前からなかったわけではないが、それ以降、すっかり一般化したこのノッチ。狭額縁化とセットにすれば本体前面全体のディスプレイ化が可能になるということで、一気に他社にも拡大した。iPhone Xのように各種機能を盛り込んだメーカーはないし、デザイン的にも優れているとは言えないが、「iPhoneが搭載すれば許される」という風潮があるので、一斉にマネしだしたわけだ。

Xperiaはこの流れに乗らなかったし、悪いことだとは言い切れないが、狭額縁化を含めた全画面化で後れを取ったことは間違いがない。また、一部メーカーのようにインカメラがスライドして現れる、といった突飛なチャレンジもしていない。

先進性を上手くアピールできていたか

昨今の極端なスマートフォンのカメラ押しも疑問ではあるが、機能として説明しやすいという面はあるだろう。ところが、いかんせんXperiaのカメラ押しは分かりにくい。中国メーカーは「ソニーのセンサーを使っている」点をアピールしがちだが、Xperiaの場合はソニーセンサーは当然として、そのセンサーの機能までも説明しがちだ。

BIONZやGレンズといったカメラ愛好者にはおなじみでも、なかなか一般に訴求しないブランド名に対して、例えばファーウェイの「ライカ」はイメージとしても「何か凄そう」ということが伝わりやすい。デュアルカメラも、端末のイメージという意味でも無視できない機能だ。

SamsungのGalaxyもノッチは採用していないしデュアルカメラ化も遅かったが、側面の狭額縁化は早く、縦長ディスプレイなど機能的にも先進性をアピールできていた。こうした部分に相当するアプローチが、Xperiaには不足していたように思う。

デザインと機能における先進性のアピールがうまくいっていないのだ。最近でも、カメラにおける960fpsのスローモーションは手軽で楽しいし、ISO51200という超高ISO感度での撮影機能も撮影シーンの幅を広げてくれる。

しかし、使いどころが難しいのも確かだ。誰もが頻繁に使う機能ではない分、ほかの優れた機能やデザインをメインにおいて、その中の一つとしてアピールする方がいいだろう。しかし、特にXperia XZ2 Premiumのように、日常的なメインスマートフォンとしては難しい大型のスマートフォンに高ISO感度撮影とデュアルカメラを搭載しても、多くの人がその機能を体験できるわけではない。

Xperia XZ2 Premium

そうした中で登場したXperia XZ3。初めての有機ELディスプレイ(OLED)採用で、側面の狭額縁化も大きく進展した。ノッチはないが、上下の余白も小さくなり、ようやく最近のトレンドに近づいたという印象がある。

Xperia XZ3公式の紹介動画。新機種に魅力が多いことは確か

ただ、近づいただけで、これはあくまでスタート地点だ。そこにソニーならではの味付けが欲しかった。その点が同社テレビのブラビアチームと協力した高画質技術などの部分だろう。ただ、従来からもX-Reality for mobileでブラビアチームとの協業をアピールしてきた中では少々弱い。

AIを活用したというよく使うアプリを表示する機能や、戻るキーやシャッターボタン代わりとなるサイドセンスも、いい機能だとは思うが、先進性のアピールとしては少々弱いように思える。

より正確にいうと、各社ともそうしたアピールは苦戦していて、どこもあっと驚く機能を搭載しているわけではないので、Xperiaだけが遅れているとは思わない。ただ、それにしても機能とデザインと販売戦略のバランスが悪いという印象が拭えない。

順当な進化だけではない、"驚き"の仕掛けが必要

Xperia XZ2の国内発売が今年の5月末。XZ3が秋の発売だとしても、年2回目のフラッグシップモデルの発売は近すぎる。こうしたマーケティング部分での疑問も感じるところだ。9月には例年、新型iPhoneの発表が控えているので、存在感を示しておく必要もあるのかもしれないが、現在のXperiaのラインアップでは、年1回の発表が順当だろう。

この時期の発表製品は、フラッグシップではなくバリエーションモデルでも良かった。Xperia XZ2 PremiumにデュアルカメラとOLEDを積んで映像に特化したモデルとしてリリースし、それを翌年のXZ3に投入する、ぐらいのタイムスケジュールでも良かったのではないだろうか。その際には、もちろんさらに機能の追加が必要となるが、実験的なバリエーションモデルで市場性を確認しつつ、Xperiaの先進性アピールとしてもいいだろう。

岐路に立たされているXperiaは、何かビックリする仕掛けが必要だ。今回は順当すぎて驚きがないので、次の新製品に向けて、一歩先を行く新たな取り組みを期待したい。

(小山安博)