セキュリティソリューションサービスなどを提供するラックは2017年4月、「働き方改革推進室」を新設。「業務効率化によって生み出した時間でイノベーションや化学反応を起こしたい」という、代表取締役社長 西本逸郎氏の方針でスタートした同社の働き方改革プロジェクトは、他社とはひと味違う。

働き方改革をする企業の多くは時短を意識し、労働時間削減を目指そうとしがちだが、ラックが取り組むのは業務効率化による時短ではない。労働時間を短縮することではなく、社員にとってムダな時間をなくして、新たな挑戦ができるような仕組み作りを目指しているのだ。それは「労働時間を生み出している」とも言い換えられる。

たとえば、新規ビジネス立ち上げに向けたワークショップを開催し、2018年6月からは勉強会を実施。7月には思いついたアイデアや技術を発表するスキルバトルの場「PoCデイ」を開催した。今秋にかけてチームを編成し、アイデア検証~デモ発表と進めていく動きが進んでいる。

アンタッチャブルな存在とされてきた「客先常駐勤務者」

働き方改革の対象は、本社や支社に勤める社員だけになりがちだが、同社では全社員の4割を占める「客先常駐勤務者」もターゲットに入れているのが特徴だ。

IT業界において、客先に社員が常駐するのは一般的な雇用形態となっている。他国にはない特殊な働き方で、これにより日本のITが進化してきたのは事実だが、社員の会社への帰属意識が薄くなったり、疎外感を覚えたりといったネガティブな側面もある。

ラックの働き方改革プロジェクトに参画し、企業成長支援事業を行うクロスリバー 代表取締役社長 越川慎司氏は、同社の取り組みを高く評価する。

クロスリバー 代表取締役社長 越川慎司氏

「これまで500社超の企業のコンサルをしてきましたが、お客様先勤務者にも働きかけているのはラックさんだけです。経営層だけでなく、一社員もプロジェクトに参加していますし、お客様先勤務者もプロジェクト・メンバーに入っている点で、組織や勤務形態、役職、時間、場所など、あらゆる壁を取り除いて挑戦しています」(越川氏)

  • 越川氏が挙げたLACの働き方改革の特徴

働き方改革の成功の定義を『企業は利益を出し、社員は働きがいを感じ、両者共に成長すること』だとすると、それが成功している企業は全体の6~7%程度。それを踏まえると現状、ラックさんも成功はしていませんが、正しい動き方をしているのは間違いないといえるでしょう」(越川氏)

現在も試行錯誤しながら、いくつかの失敗を重ね、一方で成功体験も得て、少しずつ前進している状況だ。

社員が腹落ちしないと、働き方改革は上手くいかない

働き方改革推進室ができて間もない昨年4月、無作為に選んだ社員100名にアンケート調査を実施したところ、3割以上が「働き方改革と聞いてもよくわからない」と回答していたという。働き方改革プロジェクトだけでなく、働き方改革そのものに対する認知度が低いことがわかっただけでも収穫だった。

その後、働き方改革に関する講演を開催したり、AIを用いた診断サービスやWebアンケートを取ったりするなかで、見えてきたことがある。

ラック 人事部副部長 働き方改革推進室長 山中聡氏

「働き方改革の目標や対策を具体化すること、進捗を可視化することで社員の腹落ち感を高めること。既存ビジネスの業務プロセスを改善し、労働時間を縮小し、新規ビジネスに挑戦できる時間や新たなスキルを獲得できる時間を生み出すこと。キャリアアップに不安を抱えやすい客先勤務者とのコミュニケーション密度を高め、中長期的なキャリア開発方針を固めること。そういった課題が浮き彫りになりました」と、ラック 人事部副部長 働き方改革推進室長 山中聡氏は語る。