Google Cloudのイベント「Cloud Next '18」(米サンフランシスコ、7月24日~26日) において、同社は「G Suite」に関するいくつかの発表を行ったが、印象的だったのは、その有償契約数の伸びだ。2015年末に200万社、昨年初めに300万社に到達、そして今年初めに400万社を超えた。このペースで成長し続けると、3年内に1000万社を達成できる。

  • 「検索やマップにおけるGoogleの魔法のような体験をワークプレースにもたらし、働き方のイメージを変える」とPrabhakar Raghavan氏(エンジニアリング担当バイスプレジデント)

この伸びを支えているのは、Airbus、Verizon、Nielsen、Colgate-Palmoliveといったエンタープライズクラスの企業による採用の増加である。Googleはここ数年、G Suiteの特長を保ちながら、同サービスに対する企業の懸念を払拭する努力を続け、また企業ユーザーの要望に応えてきた。それは今年のCloud Nextでの発表にもよく現れていた。

  • セキュリティセンターに調査 (Investigation)ツールを用意。これによって、感染の特定と削除、外部との共有といった問題のある使用のチェックといった監視を管理者が行えるようになる (アーリーアダプタープログラム)。
  • G Suite向けにデータリージョンを導入。一部のG Suiteアプリにおいてデータを置く場所を「グローバル」「分散型」「米国」または「欧州」から顧客が選択できる。日本は含まれていないが、企業のコンプライアンスに関わる制限に対応する大きな前進といえる。
  • クラウドまたはオンプレミスの違いに関わらず、G Suiteの外部にあるサードパーティのデータがCloud Searchの対象に (一部から提供開始、順次拡大)
  • セキュリティ警告、スヌーズ、オフラインアクセスといった4月に発表したGmailのリニューアル機能をG Suiteユーザーに一般提供開始。
  • 会話の内容を把握してAIが適切な返信内容を提案する「Smart Reply」機能がHangouts Chatで使用可能に。
  • Gmailの文章作成支援機能「Smart Compose」がG Suiteにも提供される (英語のみ)。機会翻訳ベースのグラマー修正提案機能をGoogleドキュメントで提供 (アーリーアダプタープログラム)。
  • エンタープライズ向けGoogle Voice (アーリーアダプタープログラム)。
  • 使用量ベースの価格設定で利用できるスタンドアロンのDrive Enterprise。
  • プライマリーデータを置くリージョンの選択・管理が可能に

セキュリティ強化やデータリージョンといった企業のニーズに応える機能を追加、AIを用いたインテリジェントな機能など先進的な機能も導入しているが、クラウドネイティブに伴う「突き放し」や「割り切り」を顧客に強いてはいない。例えば、Drive Enterpriseのスタンドアロン提供だ。ストレージサービスのアンバンドルによって、レガシーなECM (エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント)の問題を解決したい企業などが、G Suiteに飛び込まなくても、クラウドソリューションを利用できるオプションを設けた。Gmailのリニューアルも、一例といえる。まずはアーリーアダプタープログラムを通じて、新しいソリューションに強い関心を持つ顧客に提供を絞り込み、そして一般提供開始後も新機能の利用を顧客が選べるようにしている。顧客に新機能や新サービスを押し付けるのではなく、それぞれのペースで利用し始められるようにしている。

G Suiteはクラウドネイティブであるがゆえに、サービス開始当初からテクノロジー企業やスタートアップにはよく好まれたが、エンタープライズ市場においてはデータを預けるリスクを負ってまでクラウドに邁進することに慎重な企業が少なくなかった。そうした状況が変わろうとしている。

Gmailが登場したのは2004年、その2年後にGoogleはGoogle Docs & Spreadsheetsを公開した。PC時代からモバイル時代への移行においてデジタルネイティブが大きな役割を果たしたのと同じように、プロダクティビティでも、GmailやGoogleドキュメントなどを使って育ってきた若い世代の影響力が強まり始めている。エンタープライズ市場全体で見たら、今もクラウドネイティブに割り切れる企業ばかりではない。だが、先見を重んじる企業がG Suiteの新たな成長ドライバーになり始めている。基調講演でGoogle Cloud CEOのDiane Greene氏が、Netflix CEOのReed Hastings氏がG Suiteのヘビーユーザーの1人であることを紹介した。

クラウドネイティブであっても、「クラウドを使わせること」がGoogle Cloudの目的ではない。顧客の「ビジネスの発展」「働き方の効率化」がゴールであり、迅速性や柔軟性といったメリットを活かしたクラウドネイティブな発想に導いて、その実現を手助けするのがGoogle Cloudのミッションである。その成果が前年比で30%を超えるG Suiteの有償サービス契約数の伸びに現れている。

  • セキュア、スマート、シンプルがG Suiteのデザイン基盤