宇宙誕生の瞬間を再現可能にする超大型加速器「ILC(International Linear Collider・国際リニアコライダー)」。日本(北上山地)でのILC建設を後押しするために立ち上げられた支援団体「ILC Supporters」が6月7日、活動報告会を実施した。

  • 「ILC Supporters」

    「ILC Supporters」が6月7日、活動報告会を開催した。

「ILC Supporters」の活動目的は、研究者や関係企業の枠を超えて、一般の人々に広くILCの存在を周知することで、ILCの建設実現を推進すること。発起人の映画監督・押井守氏が声かけを行ったことで著名クリエイターを中心に各界の著名人が集い、その影響力をもって、科学と直接接点のない人々にもこの動きを周知すべく活動を行っている。

2018年4月に行われた「発足会」においては、ILC建設の国際的な意義やその概要が解説された。また、発起人であり映画監督の押井守氏は、この支援活動を行った動機について、「自身にとって『最初で最後の社会的な活動』」であるとコメントしていた。あれから2カ月、この活動によって、どのような成果が得られたのだろうか。

日本人は、科学を文化と認めるか?

  • 押井守監督

    押井守監督

押井守監督は、会の冒頭に約1カ月半の活動を振り返り、「ILCの建設は科学の問題というより文化だと思っている」とコメントした上で、「目に見えない現象に時間とお金をかけることに対して、現在の日本人がどう捉え、これを文化と認めるかどうか」が課題になっていると語った。

押井氏は「残り時間があまり残されていない」と繰り返し発言したが、これはILC誘致の"期限"がこの年末に迫っており、年内の早い段階で周知を進める必要があるためだ。欧米諸国がすでに4~5年にわたり日本政府のGOサインを待っている状況で、建設を進めるためには、2018年末までに決定を行わないと、チャンスを逃すことになりかねない。

東京大学素粒子物理国際研究センター 山下了特任教授

東京大学素粒子物理国際研究センター 山下了特任教授

日本がこうした国際研究プロジェクトの旗振り役となるのはこれが初めてのこと。誘致先となる岩手・宮城両県にまたがる北上山地周辺では、施設を利用する研究者の来日による経済効果やダイバーシティ拡大などが注目されている。

東京大学素粒子物理国際研究センター 山下了特任教授は、政府の決定プロセスの進行を考えれば、2か月後の8月までにはさらにこのサポーター活動を盛り上げていかねばならないと語った。政府中枢、官邸に向けた働きかけに社会的な反響が伴うことで、誘致に向け有力なサポートになるのだと熱弁した。

  • ILCで再現しようとしているのは「宇宙のはじまり」

    ILCで再現しようとしているのは「宇宙のはじまり」

  • 宇宙に関する研究では、国際宇宙ステーションなどに「行く」ことが注目されがちだが、ILCは異なるアプローチから、同様に宇宙の謎を解明する手立てとなる。

    宇宙に関する研究では、国際宇宙ステーションなどに「行く」ことが注目されがちだが、ILCは異なるアプローチから、同様に宇宙の謎を解明する手立てとなる。

  • 多くの人にとって耳慣れない「加速器」も、製品として身の回りにあり、その最も高機能なものが最先端加速器

    多くの人にとって耳慣れない「加速器」も製品として身の回りにあり、その最も高機能なものが最先端加速器

  • ILCを活用することで解明が見込まれるさまざまな謎

    ILCを活用することで解明が見込まれるさまざまな謎

サポーターは1万人を突破

「ILC Supporters」への参加は、SNSを活用したカジュアルな周知活動を主軸とする。同団体がWeb上などで配布しているタトゥーシールを体や身近なモノに貼り、ハッシュタグ「#ILCサポーターズ」つきでSNSに投稿することで活動に参加したことになる。(SNSに抵抗がある人向けに、公式サイトにはメールフォームも設置している。)

  • サイト上で公開されている印刷用のシンボルマーク

    サイト上で公開されている印刷用のシンボルマーク

シールになっているシンボルマークは、「STUDIO4℃」創設メンバーであり、現在はクリエィティブチーム「phyΦ(ファイ)」を主宰するアニメーション監督/映像作家の森本晃司氏が制作した。

「一般サポーター」の目標数値は1万人という設定だったが、6月7日現在、目標をすでに達成し、1万6047人にのぼったという。シールの配布は9,000枚、SNSでのハッシュタグ付き投稿数は4,483件となった。「ILC Supporters」事務局 矢吹卓也氏によれば、直近の2週間ほどで一気に拡散したとのことだ。

  • 「#ILCサポーターズ」投稿数

    「#ILCサポーターズ」投稿数

  • 一般サポーターの増加数

    一般サポーターの増加数

大友克洋氏が参加表明、ジブリ鈴木Pも応援

また、著名人サポーターの参加表明も増加しており、6月6日時点では55名。こちらは目標を100名としており、引き続き協力を募るが、それを前に大きな動きがふたつあった。

ひとつ目は、「AKIRA」で知られる漫画家・映画監督の大友克洋氏が賛同を表明したことだ。

  • 大友克洋氏

    大友克洋氏も同団体のサポーターに。

ふたつめには、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが、同活動に向けて直筆のロゴを提供したことが明かされた。現状、鈴木プロデューサーは現状サポーター登録は行っていないとのことだが、押井監督が牽引する活動に、応援の意志を寄せる格好でロゴを提供した。このロゴは既存のマークとは併存して用いる想定で、活用の内容は追って検討とのことだった。

  • スタジオジブリ・鈴木敏夫プロデューサー直筆のILCロゴ

    スタジオジブリ・鈴木敏夫プロデューサー直筆のILCロゴ。

前述の通り、今後は2018年8月をめどに引き続きSNSを中心とした参加を募り、著名人サポーターの増加を推進していく。

科学とアニメ、苦境に共通点も

イベント終盤に行われたトークショーでは、日本国内の「科学に対する認識」と「アニメ業界の状況」が酷似しているという話題に。山下特任教授が「日本では科学技術とひとくくりにされ、それが『商品』になるから大切と言われる」と語ると、アニメディレクターの竹内宏彰氏が「クールジャパンが打ち出されて以降、すぐに認められ、すぐ売れるものを…というオーダーが高まっている。アニメにおける『作品』と『商品』の違いは、『科学』と『技術』の違いに似ている」と応えた。

そして、押井監督は、「今、(スマートフォンなど)10~20年前にはなかった物がたくさん出てきているが、昔、自分がわくわくして待っていた『未来』が感じられない。それはなぜか」と疑問を投げかけ、「科学が輝いてた時代を取り戻したいが、それには『物』を作るしかない。巨大な施設が小さな物のために働き、それがいかに素晴らしいことなのか、伝えたい。未来を開くのは子供たちなので、僕らの世代はそのためになにができるか。(ILC建設によって)少しでもよい方向に転がってくれれば」と思いを語った。