一方で、自身もアーティストとして活動する伊藤氏に紹介してもらったものは、「Project Scribbler」と「Makeup Transfer」「Project Puppetron」「Project Cloak」だ。「Project Scribbler」と「Makeup Transfer」「Project Puppetron」の3つは、いずれもさまざまな画像データを学習させたディープラーニング技術を適用させたものとなる。

Scribblerは、白黒写真を自動カラーリングするもので、実に数万枚も学習させたという。

「ポートレートは自分自身、描きますが、デッサンしても色付けまでかなり時間がかかる。絵だけじゃなくて写真も可能で、対応できる画像の幅はかなり広い」(伊藤氏)。Makeup Transferは文字通り、メイクアップした画像のメイク要素を抜き出してほかの人物に適用できるもので、肌の色の違いを乗り越えられるほか、男性にもメイクを施せる柔軟性を持つ。また、Project Puppetronについても、銅像などの特徴をAIが学習して人物に適用可能となる。

Project Cloakについては、動画で不必要な領域の存在を消すことが出来る機能だ。

例えば観光地における電柱や、結婚式における新郎新婦の横に写り込んだ人など、「どうしても消したい存在」を消せる。これまでは、手作業で1フレーム毎に作業するか諦めなければならなかったが、これを自動的に、背景を計算して上塗りしてくれる。「無ければいいのに、というものを周囲のパターンをコピーして消すというやり方だと連続再生した時に違和感を覚えるケースがある。全フレームを加味して前後のフレームから必要部分のみをコピーする事で、自然に消すことが可能だ」(伊藤氏)。

これらの技術は、いずれも非常に完成度が高く見えたものの、Adobeとしてはあくまで研究開発の位置付け。もちろん、製品に組み込むとなれば、無限大のシーンに適用できるようにしなければならず、そこで完成度の低い技術と印象づけてしまっては元も子もないということだろう。

だが、β版としてでもこの機能を開放して利用できるようになれば、恩恵を受ける企業は少なくないはず。数年後と言わず、すぐそこの未来を感じた取材だった。