サブブランド優遇問題の追求は空振り

理由の1つは、大きなテーマとして挙げられていた、大手キャリアのサブブランド優遇に関して、確固たる証拠が見つけられなかったことではないかと考えられる。

サブブランド優遇に関して特に問題視されていたのは、KDDIの子会社であるUQコミュニケーションズがMVNOとして展開する、「UQ mobile」であった。その理由は、UQ mobileが他の独立系MVNOと同じようにMVNOの形態をとっているにもかかわらず、混雑時に通信速度が落ちにくいなど、明らかに優位性があったためである。

規模が小さいMVNOが、UQ mobileと同じ通信速度を実現するには、非常に多額なコストをかけてネットワークを多く借りなければならず、現実的できないとの声が多く上がっていた。それゆえKDDIがUQ mobileに対して優遇措置を講じているのではないかと、疑惑が持たれていたわけだ。

  • UQコミュニケーションズの「UQ mobile」は、同じMVNOながら通信速度が速く、ネットワーク面に関してKDDIからの優遇を受けているのではないかと言われてきた

だが今回の有識者会議で、KDDIとUQコミュニケーションズに対して実施されたヒアリングや提出資料などからは、逆にKDDIが公平な条件で、UQ mobileにもネットワークを貸し出していることが明らかにされたのである。UQコミュニケーションズは基本料を他のMVNOより高く設定することで収益を高め、それを借りるネットワークを増やす原資にしていたという。それゆえ少なくとも、貸し出すネットワークの料金や品質に関しては、他のMVNOと公平性が保たれていたことになる。

  • 第3回会合における、UQコミュニケーションズ提出資料より。具体的な内容は構成員以外非開示であったが、KDDIに支払う接続料は他のMVNOと同じ水準だったようだ

もちろん報告書案の中では、KDDIが未だ実現できていない、UQ mobile以外へのMVNOに対するテザリングサービスの提供や、大手キャリアとそのサブブランドのメールアドレスしか除外されていない携帯電話メールのフィルター設定への対処、番号ポータビリティの番号取得時に、強引な引き留めを受けない環境の整備など、キャリアとMVNOとの公平な競争環境実現に向けたいくつかの方策が示されてはいる。

だがネットワークの公平性に関しては、キャリアのグループ内MVNOに対する過度な金銭的補助など、不当な運営がないかチェックしていく体制を構築するとの方針は示したものの、現時点で特に問題が見つけられなかったため、サブブランドへの明確な措置を打ち出すことはできなかったようだ。最大のテーマであったサブブランド問題の追求が空振りに終わり、キャリアに対する明確な指導の方針が打ち出しづらくなったことが、結論を出すのが遅れた要因の1つになったといえそうだ。