もう一つ、実証実験には「公共用」も用意された。近年、駅などの公共施設にECサイト運営者が受け取りボックスを設置するケースが増えている。これに似た形で、京都産業大学が学生と教職員の受け取り用に実証実験で宅配ボックスを設置した。受け取りには、発行された受け取り番号・パスワードを入力する必要がある。ただこちらは、大型から小型まで、形状に合わせたサイズのボックスが用意されており、納品できなかった理由でも「サイズ」は比較的少数に落ち着いていた。
公共用の意義は、ずばり「ライフスタイルにあわせた受け取り方法の検証」。利用したという教職員は、共働きで受け取り時間を区切られてしまう自宅への宅配よりも、帰宅前に立ち寄れる大学での受け取りの方が良いと話す。帰宅時に手荷物が増えることになるものの、それよりも受け取れないという心理的負担の軽減を優先したいという気持ちが上回るようだ。
一方で学生も同様の理由で利用しており、公共用宅配ボックスでは検証期間中、最大で9個の商品を受け取った学生がいたという。学生特有の事情としては、新学期などに新しい教材を受け取る必要があるが、大学に持ち込む手間と再配達によるタイミングの不一致を考慮すれば「大学で受け取る方が便利」(学生)。
京都市長の門川 大作氏は、今回の実証実験について「売り手良し、買い手良し、世間良しの三方良しという言葉があるが、京都では『未来良し』も含めた四方良しにしたい。環境も含めて考えることで未来へと繋げたい」と、近江商人の言葉を引用して話す。一方でパナソニックは、実証実験を受けてミドルタイプの追加投入を決めたが、冷蔵品の保管やボックスの満庫、利用方法の周知など課題もあると語る。
アパート向けについては実証実験の設置をそのまま設備として転用することが決まったが、公共用については撤去の可能性が高く、京都市の担当者も「(公共施設への設置は)前向きに考えたいが、現状は決まったことはない」と話す。一朝一夕で進められることではないものの、三大都市圏を中心として急速に拡大するEC需要はさらなる物流の逼迫を招く。国や自治体の補助金制度の拡充など、行政を巻き込んだ早急な対策が求められそうだ。