半導体製造装置の製造・販売を行う新川は、年次評価を主軸としない、従来とは異なる人事制度を作るため、オラクルの人材管理クラウド「Oracle HCM(Human Capital Management) Cloud」を導入した。同社は、新たな人事制度の構築により、何を目指しているのだろうか。

売上高300億円達成に向け、新たな人材育成の仕組みを

2008年にリーマンショックが起きる前、新川は国内トップグループの半導体後工程製造装置メーカーとして競合としのぎを削っていた。しかし、リーマンショック後、「装置のクオリティやレベルは同等だったが、円高の影響により、価格競争に負けてしまった。リーマンショック以来、8期連続して赤字が続いてしまった」と、人事総務部長 兼経理部長 戸松清秀氏は語る。

  • 新川 人事総務部長 兼経理部長 戸松清秀氏

もっとも、赤字が続いたと言っても、新川は自己資本比率が高いため、キャッシュは多かったそうだ。

こうした現状を打破するため、同社はタイに工場を新設して原価を下げるなどして、2017年には利益が出るまでに経営を立て直した。そして、中期経営計画「Challenge Shinkawa 2020」では、2020年までに売上300億円達成を目標に据えている。これを実現する戦略の1つが「組織活性化と人材育成」となる。

この戦略において人事ができることを考えた際、「創造性を発揮する組織への変革」「意識改革をはじめとする人材育成」「多様な人材の確保」「世界の優秀な人材が活躍するステージの確保」という課題に対し、3つのことを提供できるという方針を定めたという。

3つの方針とは「リアルタイム・ミッション管理」「外国籍の社員の活用」「自発性を発揮させる取り組み」だ。

この方針を実現するため、新たな人事制度を作ろうということになり、プロジェクトの元締めとして、経営企画にも携わっていた経験がある戸松氏に白羽の矢が立った。

戸松氏が人事を担当することになったのは2年前のことで、人事業務の経験は浅い。だからこそ、社長から「抜本的に人事を変革してくれ」という指令が下ったそうだ。従来の人事制度にどっぷりと浸かってない同氏だからこそ、できることを望まれたというわけである。

これまで評価しきれなかった「エッジな人」も評価する

新川のこれまでの人事制度は、大抵の日本企業が利用している、半期や年度単位の評価をベースとしたものだった。変革のミッションを背負った戸松氏だったが、当初は、従来の人事制度からそれほどかけ離れていない制度を検討していた。

しかし、松丘啓司氏が執筆した書籍 『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』(2016年刊行)を読んで、目からウロコが落ちたという。

同書は、そのタイトルの通り、「年次評価は個人と組織の成長につながっていない。年次評価ではなく、リアルタイムでパフォーマンスを管理することで、人材を生かし、変化に俊敏に対応できる組織の構築を目指す」ことをテーマとしている。年次・中間など、社員のランク付け(レイティング)に基づく人事評価を行わない仕組みは「ノーレイティングス」と呼ばれ、評価制度の新たな潮流として注目を集めている。

戸松氏は、「従来の人事評価では、1年間にわたって目標を管理しますが、変化が目まぐるしい今、目標は1カ月、3カ月で変わってしまうのではないでしょうか。その場合、1年間かけて現実に即していない目標をベースに評価を行うことになってしまいます」と話す。

目標管理の問題に加え、評価したい人材を評価する方法がなかったという課題もあった。「従来の人事制度は、さまざまな面ですぐれた万能型のゼネラリストが高く評価されます。われわれは技術をウリにしている企業であるので、ゼネラリストに加えて、ある方面に秀でている"エッジな人"も評価したいと考えています。しかし、こうした人たちを評価する方法がわかりませんでした」(戸松氏)。