ここでは「RICOH Smart Integration」と呼ぶ、新たなオープンプラットフォームを展開。MFPやIWB(インタラクティブホワイトボード)、UCS(ユニファイドコミュニケーションシステム)、360°カメラのTHETA、ステレオカメラといった同社が提供する、オフィスと現場をつなぐエッジデバイスを活用する。さらに今年中に、ターゲット業種向けアプリケーションを約100本、利用できるようにする予定だ。

同社の顧客、約40万社の中小企業を対象とした調査では、中小企業同士のコミュニケーションはいまだに過半数が「FAXのやり取り」。こうした環境を改善するため、IWBとIBMのWatsonを連携するといった外部ソリューションの活用も進めている。

これまでのIWBでは、キャプチャ機能の活用や遠隔地との情報共有、PCやスマートデバイスの連携などが行われていた。ここにWatsonを加えることで、会議音声のテキスト化や会議履歴のタイムライン表示など、会議の見える化を実現し、さらに次のステップとして「議論内容の字幕表示」や「リアルタイム翻訳」「自動議事録作成」などが可能になるという。

リコーではすでに数万台のIWBを納入した実績があり、これを活用することで、現場とオフィス、あるいは会社と会社を連携した活用が促進できるとしている。なお、リコーでは自らAIエンジンを開発する計画はなく、ここでは、AIエンジンを持つ様々な企業と連携していくことになるという。

リコーの強み、それはプリンティング技術

強みに立脚した事業展開は、従来のリコーを進化させるものとしてイメージしやすい。では、「オープンな経営スタイル」と「メリハリのついた成長投資」とは何か。

前者は「脱自己完結」と「脱自前主義」の御旗のもと、オープンイノベーションや外部資本を活用した新規事業創出に取り組む。そのために昨年11月に準備室を作り、2018年4月から本格的に新たな経営スタイルでスタートするという。

例えば半導体事業は日清紡に譲渡したリコーだが、2割の資本を維持している。これはリコーにとって半導体事業は重要であるものの、「優先順位が後ろであることから取った施策」(山下氏)。

「売却という言い方をされるが、私は日清紡と、半導体事業において親戚づきあいをしていくビジネスだと考えている。外部資本を取り入れてノウハウを吸収して事業化するものや、リコーで生み出した事業の種を、クラウドファンディングなどを活用して、カーブアウト、事業を加速するといったことも考えていく。また、社内にイノベーション特区を用意して、コア事業とは異なるプロセスを使い、新規事業の種を、事業化に結びつけていきたい」(山下氏)

また、成長投資としては前述の通り、2018年度から2019年度にかけてM&Aで計2000億円を超える投資を計画する。

会見では、富士フイルムによる米ゼロックスの買収について質問が出たが、「これによって、リコーのオフィスプリンティングの事業が揺らぐことはないが、新たな競争が始まることになるのは明らか。そこにワクワクしている」と、山下氏は話す。

周知のように富士フイルムはフイルム/カメラメーカーから脱却し、メディカルやライフサイエンス、医薬品、電子材料をベースとしたインフォメーションソリューションなどを事業の柱にしている。今後、富士フイルムとゼロックスが持つ技術を組み合わせることによって、新たな事業領域に踏み出す可能性もあるだろう。

今回のリコーが打ち出した成長戦略ではバイオプリンティング領域への進出が盛り込まれるなど、プリンティング技術を生かした積極姿勢が目に付く。プリンティングメーカーとしての競合はもちろん、リコーとゼロックスが新たな領域で競合するといった可能性も出てきたといえよう。

「三大発明のひとつである印刷は、情報伝達、情報共有、知恵の蓄積という点で、文明に多大に影響を与えてきた。このプリンティング技術が、ここにきて、さらに役割が拡大していくことになる。デジタル技術との組み合わせによって、活用領域が広がり、既存の技術を置き換えるイノベーションを起こすことになる。リコーは、プリンティング技術の可能性を広げていく」(山下氏)

プリンティングの強みを新たな成長の柱に繋げられるか。ソリューション売りだけではない「テクノロジー」の特異性、強みが、誰も知らないリコーへと生まれ変わる「挑戦」の成功の鍵を握る。