1月4日に掲載した記事では、2017年の日本マイクロソフトを振り返った。今回は、2018年の動向を予想してみたい。当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦、新年の暇つぶしとしてご笑覧いただければ幸いだ。

新機能を搭載したOffice 2019が登場

Microsoftは海外メディアに対して、Office 2016の後継となるOffice 2019を2018年後半にリリースすると明らかにしている。もっとも以前から、「将来的にユーザー需要があれば、Office 365で実装した機能を『Office 20xx』としてリリースする可能性がある」(元Microsoft CVP, Apps and Services Marketing, John Case氏)と述べていた。

あくまでもOffice 2019は、クラウド移行が進んでいない顧客を対象にしている。Microsoft AzureとMicrosoft Azure Stackのようなハイブリッドクラウドソリューションを、Officeでも続行する形だ。今現在も、Office 365への移行を必要としないコンシューマーユーザーや、中小企業のユーザーには救済となるだろう。

  • 元Microsoft CVP of Apps and Services MarketingのJohn Case氏

    2015年9月に来日した元Microsoft CVP of Apps and Services MarketingのJohn Case氏

開発環境が整う量子コンピューティングは今年も加速する

Microsoftが2017年9月末に開催した「Ignite 2017」の基調講演では、「複合現実」「AI」「量子コンピューティング」の3分野への注力を加速させることを表明した。2017年12月中旬には、量子コンピューティング環境の開発言語「Q#」や、量子コンピューティングシミュレーターなど、量子コンピューター用アプリケーション開発を可能にする「Microsoft Quantum Development Kit」をリリース。

日本マイクロソフトは、「1年で約3倍という成長を踏まえると、5年も経てば量子コンピューターを部分的に利用できるはず」(日本マイクロソフト 執行役員 CTO 榊原彰氏)と語っている。量子コンピューティング研究を行うMicrosoft Research Station Qしだいだが、2018年もその勢いは加速しそうだ。

  • 日本マイクロソフト 執行役員 CTO 榊原彰氏

    日本マイクロソフト 執行役員 CTO 榊原彰氏

  • Microsoft、量子コンピューターの試作チップ

    量子コンピューターの試作チップ

次期HoloLensの存在が見え隠れ?

個人的には、ヘッドマウントディスプレイ型のコンピューター、「HoloLens V2」(仮称)を期待している。2016年3月に登場したMicrosoft HoloLens(以下、HoloLens)は、2017年1月から日本上陸し、仮想現実が見せる世界観や可能性を我々に示した。その後、JALや小柳建設などがビジネスソリューションに活用し、訓練や建設現場のIT化を推進しつつある。

HoloLensは一種のPCであり、ケーブルレスを実現しているなど魅力的なデバイスだ。だが、視野角の狭さも相まって、日常的に利用するまでには至らない。579gという重量も意外と負担になる。これらの欠点を改善する次期バージョンを、Microsoftが手をこまねく理由はないだろう。

もっとも、2017年に続いて2018年も日本マイクロソフトは、「HoloLensはビジネスソリューションを変える存在」として普及させる意志が強い。この狙いを踏まえると、次期バージョンは2018年の終盤ごろ、噂に上れば御の字といったところではなりだろうか。

  • 「A350向け訓練アプリケーション」のイメージ

    エアバスが2017年11月14日に発表した「A350向け訓練アプリケーション」のイメージ

加速する「Microsoft Loves OSS」

10年前の自分に教えてあげたい。「MicrosoftはOSS(オープンソースソフトウェア)コミュニティと手を取り合うよ」と。

Microsoftの元CEO、スティーブ・バルマー氏の発言が政治家のように切り取られたものだとしても、MS vs OSSの構図は歴然だった。MicrosoftとOSSは、IT業界の中でまったく異なる方向を向きながら進んでいたのだ。

それが今や、ミッションクリティカルな領域でもOSS製データベースやフレームワークが用いられるようになり、みるみるうちにMicrosoft Azure上で稼働する仮想マシンもWindowsではなくLinuxが増えた。ひとえに現在のMicrosoft CEO、Satya Nadella(サティア・ナデラ)氏の方針転換が奏功している。

  • Microsoft EVP of  Cloud and Enterprise Group

    2017年11月にMicrosoftが開催したConnect(); 2017では、Azure Database for MariaDBなど多くのOSS系サービスを発表した。写真は基調講演に登壇したMicrosoft EVP of Cloud and Enterprise Group, Scott Guthrie氏

とある日本マイクロソフト関係者に、「MicrosoftにOSSの雄が合流し、その理由を質問した上で自身も入社を決めた」と聞いたことがある。年次イベントの1つ「Microsoft Connect ();」でMicrosoftは、OSSに関する大々的な発表を行ってきた。2016年はLinux Foundationへの参画で、2017年はもっと盛りだくさんだ。OSやソフトウェア、サービスの構築・運用管理を自動化するオーケストレーションサービス「Kubernetes」を、Microsoft Azureに標準機能として実装することを明らかにした。2018年も、何らかの驚きを隠しているに違いない。

Windowsは最終的にコアモードだけになる!?

それと関連して気になるのが、MicrosoftのWindows 10に対するスタンスだ。Windows 8.xでウォーターホール的開発を終了し、アジャイル手法でコードを書き上げているMicrosoftだが、品質面に食い違いが発生していると述べるのは言い過ぎだろうか。直近の機能更新プログラムでも古いファンクションにバグが見つかり、古いWin32アプリケーションが正常に動作しないなど、自慢の後方互換性にも陰りが見える。

また、WSL(Windows Subsystem for Linux)の存在も興味深い。WSLは開発者向けにLinuxの利便性をWindows 10上で実現する機能として、開発が続いている。2018年3月リリース予定の機能更新プログラムでは、バックグラウンドタスクが動作可能になるなど、Linuxが持つ利便性をWindows 10上で実現しつつある。「最終的なコアシステムはLinuxに置き換わるのでは」と夢想してしまいそうだ。

  • Microsoft CVP of AI Business

    Microsoft CVP of AI Business, Steven Guggenheimer氏。来日当時はChief Evangelistを務めていた

もちろんコンシューマーレベルで見れば、サードベンダーのソフトウェアやデバイスのサポート状況など、Windowsのアドバンテージは揺るがない。仮に適当なノートPCへUbuntuをインストールしても、Windows 10と同じように周辺機器のフル機能を使うのは難しい。

2017年5月に訪日したMicrosoft CVP of AI Business, Steven Guggenheimer氏は、「今の友人を大事にしつつ、新たな友人を作る」と語り、OSSとのコミット方針を説明していた。最終的にWindows 10は、Windows Serverバージョン1709と同じくServer Coreモードだけとなり、GUIやフレームワークはOSSに置き換わるかも知れない。

阿久津良和(Cactus)