毎年恒例の「PCテクノロジートレンド」。今回はメインメモリとグラフィックスメモリ、そしてIntel/AMDのチップセットの動向について解説する。

まずはメモリについて。これまでIDFにおけるMemory Sessionの資料を使いながらメモリの動向を紹介していたのだが、IDFそのものがなくなってしまったので、お見せできるものがない。その代わり、ちょっとテクノロジートレンドを紹介したいと思う。

  • 猫ベッドからはみ出すまめっち先生

    猫ベッドからはみ出すまめっち先生。なぜ1本だけ後脚が出てる?

Main Memoryは完全にDDR4に移行した。直近(2017年12月現在)では、再びDDR4 DRAMの価格が高騰しており、再びDDR3とDDR4で再び価格の逆転現象が発生している。以下は2017年12月28日付、2017年1月26日付け、2017年6月28日のDRAM ExchangeのDRAM Spot Priceである。

  • DDR4 2133/2400MHzとDDR3 1600/1866MHzを比較

    DDR4 2133/2400MHzとDDR3 1600/1866MHzを比較すると、Session Averageでは1ドル近くDDR4の方が高い

  • Session Averageでは0.3ドルほどの差

    Session Averageでは0.3ドルほどの差しかない

  • このころが一番価格差が小さかった

    このころが一番価格差が小さかった気がする。0.2ドル強

なぜDDR4の価格が高騰したのか。そもそもDRAM需要が急増する一方で、メモリメーカーは儲けが少ないDRAM、正確に言えばCommodityのPC向けDDR4よりも、Flash MemoryやLPDDR4などに代表される利益の多い製品に向けて設備投資を行ってきた。その結果として急速に供給が逼迫し、価格が高騰したという図式である。

とはいえ、Intel/AMDともにメインストリームからバリューまでほぼDDR4に移行を完了しており、いまさらDDR3に戻るというわけにもいかず、当面はこの高値安定状況が続くのは間違いない。

メモリ大手3社が10nm世代の微細化に突入

ということでこの先の話である。テクノロジーでいえば、大手3社(Samsung, SK Hynix, Micron)はいずれも10nm世代の微細化に突入する。一番先行しているのがSamsungで、同社は2016年4月に1Xnm(18nm)世代でのDRAMの量産を開始しているが、2017年12月に第2世代の1Ynm(15nm)の量産開始をアナウンスしている。この第2世代は速度を3,600Mbpsまで引き上げられたうえに、ダイサイズを30%縮小できたという話である。

これにやや遅れて続くのがSK Hynixで、18nmを使う第1世代を2017年第3四半期末から量産している。さらに2018年後半までに、第2世代(1Ynm:15nmなのか16nmなのかは不明)の量産を開始したいようだ。

一番遅れているのがMicronで、まだ20nmでの生産であるが、2018年第1四半期中に1Xnm(18nm?)の量産を開始したいようだ。そんなわけで2018年は、SamsungとSK Hynixが1Ynm、Micronが1Xnmでの製造ということになる。

その他のベンダーは? というと、Nanyaは20nmの量産を2017年からスタートしており、1Xnmへの移行は早くて2019年になりそうだ。WinbondはそもそもDDR4を手がけておらず、引き続き38nmを利用したDDR3のみとなる。ここはPC向けというよりは組み込み向けが主な市場なので、これはこれで構わないのだろう。

  • 2017年3月に開催されたChina Memory Strategic Forum 2017の基調講演

    これは2017年3月に開催されたChina Memory Strategic Forum 2017の基調講演における資料より。最新のロードマップはTechInsightsから入手できる

SamsungがDRAMの生産能力を大幅に増強、2018年末には価格下落の見通し

さてそのSamsungであるが、こういうニュース(https://news.mynavi.jp/article/20171107-a025/)が2017年中にあった。実はこの話は他のソースからも聞こえてきており、2018年中にはDRAMの生産能力を大幅に増強する予定であるとする。

これは単に逼迫している供給を緩和するだけではなく、3番手グループへの牽制が目的という見方もある。「3番手グループ」とは中国でのことで、2017年11月に台湾DigiTimesは中国のDRAM Fabへ装置納入が始まったことを報じている(会員のみ購読可)。

実際それだけでなく、DRAM製造のノウハウを持ったエンジニアもそれなりに集めているという(これは旧エルピーダメモリの坂本幸雄氏が立ち上げたSino King Technologyとは全く別の話である)。

  • 中国各州がDRAM製造にどれだけ投資を掛けているか

    同じくChina Memory Strategic Forum 2017の基調講演における資料より。これは中国各州がDRAM製造にどれだけ投資を掛けているかを示している

適切な投資と人員が集まれば、20nm世代のDRAMは比較的早期に量産できる可能性があると見られており、だからこそSamsungはいち早く1Ynm世代の量産に踏み切るとともに製造設備の増強を決めた形だ。

前述したように、15nmで製造するSamsungの第2世代DRAMは、18nmの第1世代に比べておよそ30%ダイサイズを縮小できるということで、これは逆に言えば値段を30%下げてもまだペイするということを示している。

Samsungとしてはこの中国勢の追撃を振り払うために、一刻も早く30%安いDDR4チップを大量に量産出荷することで、中国のDRAMファウンダリがビジネス的に美味しくない(というか、成立しない)状況に持ち込みたいものと思われる。

これは中国だけでなく、それこそNanyaやMicronをも直撃する(SK Hynixは何とか逃げ切れるだろう)戦略であるが、実はこうした戦略はこれまでもDRAM業界で繰り返されてきたことであり、DDR4世代でもまた再現されると見られている。そんなわけで早ければ2018年後半、遅くても年末までにはまたDDR4チップの値段は下落する方向に向かうと見られる。