京都大学は10月16日、抗がん薬・パクリタキセルの副作用である末梢神経障害(しびれ)を、手足を冷却することで予防できるという研究結果を発表した。

同成果は、華井明子 医学研究科博士課程学生、石黒洋 同特定准教授(現・国際医療福祉大学教授)、戸井雅和 同教授、荒井秀典 同教授(現・国立長寿医療研究センター副院長)、坪山直生 同教授らのグループによるもので、2017年10月12日に医学誌「Journal of the National Cancer Institute」(JNCI)に掲載された。

利き手側の手足を冷却。冷やさなかった方の手足と比較して効果を検証した

乳がんや肺がんなどの治療に用いられるパクリタキセルによる手足のしびれは、投与した患者の67~80%が経験するにもかかわらず、これまで効果的な治療薬や予防手段がなく、この副作用が原因でがん治療を断念せざるを得ないケースや、がん治療後に生活に支障をきたすケースが後を絶たなかった。同研究グループはこうした背景から、患者のQOLを著しく低下させるしびれの軽減を目指して研究を行った。

パクリタキセルがしびれを起こす背景には、神経にパクリタキセルが取り込まれることで細胞体や軸索を障害すること、また血管や感覚器などの末梢組織にダメージを与えることなどが影響している可能性があるとされているが、詳細なメカニズムは分かっていない。

今回の研究では、局所的に血流の量を減らすことができる冷却に着目。こういった予防法はこれまで爪や皮膚の副作用予防に対して用いられていたが、しびれの予防効果は不明だった。

そこで、パクリタキセルの治療を受ける乳がん患者40名を対象に、-25~-30℃下で冷やした冷却用グローブとソックスを用いた手足の局所冷却がしびれ予防に有効であるかという調査を実施。パクリタキセルの点滴中に利き手側の手足を冷却し、逆の手足は通常の治療と同様に何も行わずに、12週間以上の抗がん薬治療を行った。

手に関して比較を行ったところ、しびれや違和感などの自覚症状だけでなく、触覚や温度感覚、手先の器用さの変化についても、パクリタキセル投与に伴う副作用の悪化を予防できることが分かった。冷却しなかった手足では半数以上の人が「ものをよく落としてしまう」「細かい作業がやりにくくなった」「歩きにくくなった」といった日常生活での支障が出る程度のしびれを感じていたものの、冷却した手 足にそのようなしびれを感じる人は数%程度となり、しびれが出たとしても気にならない程度に抑えられたという。

また、生活に支障をきたすような中等度から重度のしびれを感じるまでの期間に関しても、冷却した手足では病状進行のリスクが87%低くなることが判明。手先の器用さの測定を、小さなピンをつまんでできるだけ早くボードに刺していく検査を通して速さの変化を比較して行ったところ、冷却していない手では動作が遅くなっていく傾向がみられ、感覚が分からずにピンを落としてしまう例も見られた。

なお、同手法を普及させることで、患者がQoLを維持しながら安心して抗がん剤治療を受けられることが期待される。同研究グループは、今後、臨床の現場で冷却技術を適正に施行するために、保険適応ならびに機器の提供やスタッフの充実を図ることが望まれると結んでいる。