「思い通りの色」で表示させるカラーマネジメントソリューション

福島清道氏

NECディスプレイソリューションズ 商品開発本部 MN開発Gの福島清道氏からは、同社のカラーマネジメント対応ディスプレイの紹介があった。

例えば、クリエイターがデジタルサイネージに表示させるコンテンツを作成した場合、「想定通りの色味で表示されなかった」という問題が起きることも少なくない。特に近年はデジタルコンテンツの普及に伴い、クリエイティブ業界に限らず、オフィスや官公庁、美術館などでも"色を正確に扱う"ニーズが増えているという。

「当社が持っている独自技術『SpectraViewエンジン』をディスプレイ内部に搭載することにより、即時に目標の色へ合わせることが可能になりました。内部センサーによりディスプレイの状態を常時監視し、画面表示へのフィードバックが可能です。そのうえ、通常のハードウェアキャリブレーションで制御されない機能ブロックもエンジンの管理下に置けるようになりました」(福島氏)

SpectraViewエンジンの仕組み

カラーマネジメントで目的の色(輝度、白色点、ガンマカーブなどのターゲット値)の設定を行うには、外部のカラーセンサーとソフトウェアを使った「ハードウェアキャリブレーション」と呼ばれる手法によって、ディスプレイの色を読み取って調整することが一般的な方式になっている。しかし、その場合、1つの目標値に設定するまでに数分から十数分の時間を要するだけでなく、ディスプレイの経時変化補正のため一定の期間で補正作業をしなければならない。

「『SpectraViewエンジン』は車に例えると、80km/hで走るよう指示すればその通りに走行するオートクルーズのようなもので、例えば100cd/m2(カンデラ毎平方メートル、輝度の単位)、5000k(ケルビン、色温度の単位)と指定すれば、温度変化や経時変化があっても自動で調整されます」(福島氏)

コンテンツを表示させるディスプレイが同エンジンを搭載している場合は設定をコピーするだけで色味の調整を行うことが可能で、エンジン非対応のディスプレイに表示させる場合は、ディスプレイの情報をあらかじめ取得しておき、カラープロファイルのデータをSpectraViewエンジンに読み込ませることで、デザイナーは自分のデスクトップ上で最終的に表示される色を確認しながら作業することができる。

また、紙に出力する場合でもプリンターのICCプロファイルをエンジンに読み込むことで、専門的なスキルがなくても、出力される色味で作業することが可能。さらに、「色覚エミュレーション機能」によって、カラーユニバーサルデザインに考慮したコンテンツの作成をサポート。リアルタイムで複数のタイプを同時に確認できるので、動画などのチェックも行うことができる。

色覚エミュレーション機能

利用シーンに応じた技術を搭載したパブリックディスプレイ

野口利幸氏

最後に同社のパブリックディスプレイ(PD)に使われている技術の説明が行われた。NECディスプレイソリューションズ 商品開発本部 MN開発Gの野口利幸氏は「一般的な家庭用テレビと比較すると、PDは用途が異なるので、性質としても異なるものが求められます」としたうえで、いくつかの相違点を提示した。

「まず、PDはテレビに比べて明るい場所で使われるケースが多いので、蛍光灯などが画面に映りこまないよう、表面処理に光を乱反射させるAG(アンチグレア)フイルムを使用します。ただし、屋外では『白とび』が発生してしまうため、反射防止特性を持ったAR(アンチリフレクション)フイルムが使われます」(野口氏)

テレビよりも視聴距離が長く、情報の表示で使われることも多いため、PDには高い視認性が求められる。また、「PDは左右や上下といった正面以外から見るケースも多いため、広視野角が求められます」と野口氏は視野角特性についても解説した。

用途に応じたPDの技術

また、用途によって使用時間はさまざまだが、PDでは最大で24時間連続して使ってもパネルが劣化しない耐久性が求められる。さらに静止画を流し続けることの多いPDでは、残像に強く、焼き付けしにくい高品位のパネルを使用する必要があるという。

機能面でも両者は大きく異なる。家庭内のAV機器と接続するテレビに対して、PDはシステムの一部としての利用がメイン。同社のPDでは、先述した「SpectraViewエンジン」をはじめ、多様なプロトコルに対応した外部制御やマルチ表示における制御、オプション用スロットによる拡張性を持っている。

その中でも拡張性について野口氏は「インテル、マイクロソフトとの協業によって策定したOPS(Open Pluggable Specification)規格に準拠したOPSモジュールをオープンプラットフォームとして展開しています。これはWindows用のアプリケーション開発のため、システムや開発環境といったお客さまの資産を有効活用することができます」と、強調。アプリケーションの負荷に応じてさまざまなOPSラインアップから最適なモジュールを選択できるという。

特に、ローコストのオープンプラットフォームとして、同社では「Raspberry Pi 3」と同社専用のI/Oボードから構成されるモジュールを展開している。

Raspberry Pi 3を使ったオープンプラットフォーム


テレビやパソコン、サイネージや街頭の動画広告、映画館やイベント会場の大型ビジョンなど、現代はさまざまな映像に溢れている。それらはすべて同じではない。ひとつひとつが見やすくなるような工夫がなされ、そして日々進化しているのだ。ディスプレイに込められた技術を知ることで、映像を"見る目"が少し、変わるかもしれない。