京都大学(京大)は8月31日、ATPのレベルを維持することによって、パーキンソン病のような神経変性疾患で影響される脳細胞を細胞死から保護することができると考え、ATP消費を制限する化合物と、ATP生成を増加する化合物の2種類を開発したと発表した。

同成果は、京都大学大学院生命科学研究科 垣塚彰教授らの研究グループによるもので、7月24日付けの国際科学誌「EBioMedicine」に掲載された。

脳や中枢神経系のATPの減少は神経細胞死をもたらし、虚血性または神経変性疾患を引き起こすことが知られている。たとえばパーキンソン病(PD)は、黒質のドーパミン作動性ニューロンの細胞死によって引き起こされるが、原因はミトコンドリアの機能不全とATP減少だと考えられている。

加えて、PDの患者にはドーパミン作動性ニューロンにα-シヌクレインのタンパク質凝集体であるレビー小体の存在がみられることから、α-シヌクレイン凝集体の産生とATPの減少に何らかの関係があるとも考えられていた。

同研究グループは今回、まず、細胞内のATP消費を減らすことができるKUS(Kyoto University Substances)剤を開発した。KUS剤は、これまでの研究で、網膜色素変性、緑内障、虚血性網膜疾患での網膜神経の細胞死を防止できることが確認されていたものである。

また、同研究グループは、およそ10万の化学物質をスクリーニングした結果、クマリン由来の天然化合物であるエスクレチンが、脂肪の燃焼やミトコンドリアの産生に関わる因子であるERR(エストロゲン受容体関連受容体)のアゴニストとして機能し、ATP産生を増やし細胞内のATPレベルを上昇させることも発見した。

さらに、2種類のPDマウスモデルを使い、生体内でもKUS剤とエスクレチンがPDでの神経細胞死に対して保護効果を持つことを確認。治療を受けたPDマウスモデルの神経細胞は、α-シヌクレインと、アポトーシスを誘導する転写因子であるCHOPの発現レベルが修正され、ATPレベルも平常に戻ったという。

同研究グループは今回の成果について、ATPレベルを調整することでPDのような治癒不可能な神経変性疾患を治療できる可能性があることを示すものであるとしており、今後ほかの神経変性疾患の治療への活用も期待できると説明している。

研究のイメージ図 (出所:京大Webサイト)