昨今、人工知能の発達が注目されるかたわらで、それによって失われる職業の話題が上がる。しかしそれ以前から、技術的な移り変わりの激しいIT業界において、"使える技術"というのはめまぐるしく移り変わっている。
中でも、Flashによるコンテンツ制作は、急激にシェアを落としたもののひとつといえる。1990年代後半~2000年代前半にかけて起こった「Flashアニメ」の流行(数多くの作品がヒットしたが、中でも千葉!滋賀!佐賀!のアニメを覚えている人は多いかもしれない)、またWebサイトにおける動的表現の手段としてなど、IT業界において「Flashクリエイター」の活躍の場は多かった。
しかし現在、Flashをサポート外としたiOS、それを積んだiPhone/iPadが普及したことを契機として、Webコンテンツの開発の主役はHTML5へと移り変わり、その存在感を見る間に失っていった。提供元であるアドビが2020年にFlashのサポートを終了することも発表された今、「Flashクリエイター」だと自称して働くことはとても難しい。
では、かつての「Flashクリエイター」たちはどこへ"消えた"のだろうか?
GREEは、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2017」1日目(8月31日)において、「Flashクリエイターはどこに消えた? ~変化に適応するマネジメントと、ゲームアプリをリリースするまでの軌跡~」というセッションを開催し、その解として、同社内に在席する5人のスタッフのケースを公開した。
Flash時代のノウハウで3Dエフェクト制作
今回登壇したのは、スマホアプリ開発を行う同社のスタジオ「Wright Flyer Studios」のアニメーションチームに所属する5名のスタッフ。それぞれが異なる領域で活躍しているが、全員が「元・Flashクリエイター」だ。
最初に登壇したのは、3Dエフェクトを担当する淨園崇史氏。遊技機メーカーからNHN JAPAN、サイバーエージェントと場を変えつつ、主にブラウザ・スマホゲームのエフェクトを制作してきた。現在は同スタジオ発のアクションRPG「武器よさらば」の3Dエフェクトを担当している。
同タイトルは社内初の3Dゲームとあって、前例がない中、これまで触ったことのなかった3Dソフト「Maya」で業務をこなす必要があったのが大きなハードルだった。そこで、Mayaの機能の一部である移動、回転、スケール、アルファのみを用いて、「Flashでこれまで作っていたものが3Dになっただけ」という発想で取り組み始めたという。
また、戦闘時にひとつの画面に大量のエフェクトが表示されるため、処理負荷を極限まで軽減する必要があり、Unityでの処理が重くなってしまうアルファ処理を極力使わないで仕上げる必要があった。そこで淨園氏は板ポリゴンを有効活用し、シンプルな素材の組み合わせで見栄えを良くする工夫を公開。また、短期間で大量に作る必要があったため、テクスチャやメッシュを使い回すための運用を心がけていたと言う。こうした使い回しの考え方は、Flash時代と同じとも付け加えた。
淨園氏は昨今の3D表現のすごさを目の当たりにし、こんなものは作れないと怖気ついてた時期があったという。しかし、スマホアプリのゲーム開発では容量の削減、アセットの量産など、3Dを用いる現場でもFlash時代と変わらず、経験を生かせる制作状況だったとして、元Flasherにエールを送った。
新しいことへの挑戦は2Dも3Dも変わらない
代氏のこれまでの業務とメインツール。lwfとは、Flashクリエイター向けに提供しているオープンソースのフレームワークで、Flashを用いて2Dアニメーションを制作し、Unity、HTML5などで動作させることができる |
次に登壇したのは、3Dモーション担当の代一龍氏。代氏も淨園氏と同様、Maya未経験の状態で「武器よさらば」の制作に参加した。同氏は、参加のタイミングで会社が実施した1週間のMaya研修に参加したことで、最初の壁を越えたという。今は自らが発起人となりMayaの社内勉強会を開くまでになったという。
また、初挑戦のゲームジャンルの部門だったため、人員も集めながらの制作となっており、当時はモデラーが合流する前だったため、モーション担当でありながら仮のモデルから制作するなど、挑戦する範囲が非常に広くなっていたことも語った。
一度に全体のモーションをつけると混乱するケースもあったということで、腕や足にそれぞれ動きを段階的につけていくなど、手を止めない工夫も語られた。代氏は、「常に新しい環境に対して挑戦を続けるのは、2Dでも3D変わらない」として、Flashでの経験は、3Dモーション制作でも生かせると語った。
Flash制作の知見、少数精鋭チームで生きた
続いて、現在「武器よさらば」のアニメーション演出を行っている萬両史浦氏が参加。NHN Japan(現LINE)でのFlashサイト制作からキャリアを開始した萬両氏は、GREE入社後もFlashやAIR for Androidを用いたサイト制作やアプリのモック制作を行っていたが、Unityを習得した後はそれを用いたアプリの演出モック制作などを手がけるようになっていたという。
萬両氏は同タイトルに参加する以前に、さまざまなプロジェクトに参加してきた。現場ごとに異なる担当領域に参加することで、段階的に新しい技術を習得していくことができ、短期間での技術習得にはFlash時代の経験が生きてきたと語った。
ここに至るまで変化に適応してきたことで、その道のプロにはかなわないものの広い技術を習得できた、と萬両氏。Flash制作をしていたころは、エフェクト、UI、キャラモーションを組み合わせたひとつの画面演出を行っていたため、ツールが変わった今もその経験が生きているという。「武器よさらば」ではさまざまな技術が絡み合うカットシーンなどの演出制作を担当するなど、少人数で多くの課題に取り組まなくてはならない現在のチームの業務に、Flash時代の知見は生きていると締めくくった。