さて、米国やトランプ大統領の都合だけでなく。Appleの都合についても触れておかなければならない。Appleはこれまで、デザインや設計、ソフトウェア開発を自分たちが担当し、製造や組み立てをサプライヤーや委託先企業で行ってきた。

Appleは、サプライヤーが持つ技術の可能性を見抜いて、それを製品のセールスポイントに変えることに長けていた。ディスプレイやカメラといったスペックに関わる技術、あるいはインクによる塗装や金属加工といった美しさや質感に関わる技術を発見して採用し、大量生産化するというプロセスで、iPhoneの魅力に変えてきた。

独自のARM系プロセッサを積んだiPhone 4

しかし、iPhone 4から採用されたプロセッサからは方針の変更が伺える。P.A. Semiを買収したAppleは、A4移行、独自のARM系プロセッサを設計し、iPhone、iPadに採用してきた。iOSとの組み合わせにより、高いパフォーマンスと低消費電力を両立している。またTouch IDを実現する指紋認証技術や、今後採用されるであろう顔認証技術の企業についても買収を進めており、競合製品との差別化要因へと保有していた技術を育てている。

加えて、前述の通り、ディスプレイ技術で成長した企業の買収は、Appleのディスプレイを特別な差別化要因へと変化させる足がかりとなると捉えられよう。となれば、Appleとしては、既存のサプライヤーではなく、プロセッサと同様に、独自の製造委託先企業による生産が望ましくなる。

世界中から工場の設営先で有利な場所を検討する中で、(珍しく)米国という選択肢が魅力的かつ現実的な条件になりつつある、というのが現在のところだろう。