独自のクリックホイールと大型の液晶ディスプレイによる快適な操作感も人気の要因だったが、iPodがこれほどまでに注目を浴びたのは、ポータブルCDプレーヤーに比べて圧倒的にコンパクトだったからだろう。ポータブルCDプレーヤーはどうしてもCD (直径12cm)以上の大きさになってしまうが、小型のHDDを記憶媒体とするiPodは大容量なのに圧倒的に本体が小さく、CDプレーヤーのように「音飛び」が発生する心配もなかった。

やがて、デジタル機器の記憶媒体としてフラッシュメモリが普及し始めたころにAppleから登場したのがiPod shuffle、iPod nanoだった。フラッシュメモリーはHDDよりもさらにサイズが小さいため、音楽プレーヤーに「デザインの自由」を与えるきっかけを作った。当時発売されていた他社の音楽プレーヤーも、奇抜なデザインを採用するものから、iPod nanoよりもコンパクトなサイズをウリにするものまで多種多様となった。

このように、iPodは音楽プレーヤーを光ディスクメディアの記憶容量や可搬性の縛りから解放した製品だったと言えるかもしれない。当時を振り返れば、iPodの登場によって「音楽は便利に楽しむもの」という価値観が若い音楽ファンを中心に根付いていったように思う。その流れを汲んだ音楽プレーヤーの新しい姿が「スマートフォン」である。

スマートフォンの登場以前、フィーチャーフォンでも音楽を聴くことはできたが、iPodなど音楽プレーヤーの方が圧倒的に楽曲再生のハンドリングが手軽、バッテリーも長持ちだったので、広く浸透することはなかった。ところが2008年にAppleが発売した「iPhone 3G」を皮切りに、「ケータイで音楽を聴く」というスタイルが普及していくことになる。

以降は、2007年に発売された「iPod touch」との両輪により、iTunesを使ったCDリッピングや手軽なファイルの送受信、iOSとマルチタッチ液晶、アプリによる音楽再生が認知を広げていった。そして、マルチタッチ液晶とアプリのトレンドは、Androidスマートフォンにも広がっていくことになる。

iPod touch (第1世代)

スマートフォンで音楽を楽しむことがすっかり定着した今では、音楽のダウンロード再生やストリーミングサービスの利用が一般的になった。CDから音源を取り込む機会も次第に減りつつある。

このような環境において、iOSやマルチタッチ液晶、インターネット接続といずれの機能も実装されなかったiPod nanoとiPod shuffleが、徐々に時代のメインストリームから取り残されてしまったのは、残念だがどうしようもないことだったとも思う。

後編ではiPod nano、iPod shuffleが音楽プレーヤーの発展に果たしてきた役割について掘り下げながら、そのDNAが未来の音楽プレーヤーにどんなかたちで受け継がれることになるのか予想してみたい。