広島大学は、ドコサヘキサエン酸(DHA)を摂取すると脳内でエストラジオール(女性ホルモンの一種)の合成が活性化され、てんかんに伴うけいれん発作が抑制されることを明らかにしたと発表した。

研究成果の模式図。マウスにDHAを摂取させると脳内でエストラジオールの合成が活性化し、てんかん発作によるけいれんが抑制された。 (出所:広島大学プレスリリース)

同研究は、広島大学大学院総合科学研究科の石原康宏助教、山﨑岳教授、徳島文理大学香川薬学部の伊藤康一教授、産業医科大学医学部の辻真弓准教授、川本俊弘教授、順天堂大学医学部の川戸佳教授、カリフォルニア大学デービス校のVogel博士らの研究グループによるもので、同研究成果は、7月24日に「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

ω-3脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)は、脳の発達に影響することや、酸化ストレスに対する脳保護効果を示すことが指摘されていた。DHAは、核内受容体であるレチノイドX受容体と結合することから、様々な遺伝子の発現を制御し得ると推測されるが、脳内作用メカニズムには不明な点が多く残されていた。同研究チームは、レチノイン酸X受容体の標的遺伝子には、女性ホルモン合成酵素が含まれることと、女性ホルモン(エストラジオール)は、神経疾患や有害化学物質から脳を守るはたらきを有することから、DHAのてんかんに対する作用について、脳内女性ホルモンに着目して研究を行った。

同研究チームは、離乳直後のマウスを通常食、ω-3脂肪酸欠乏食、ω-3脂肪酸欠乏食にDHAを添加した食事で飼育したところ、女性ホルモンであるエストラジオールを合成する酵素、シトクロムP450アロマターゼの発現がω-3脂肪酸欠乏食で低下し、DHAの添加により大きく上昇することを見出した。また、DHAを添加した食餌を摂取したマウスは、ペンチレンテトラゾールによって引き起こされるけいれんの発症までの時間が有意に遅延していた。DHA摂取により、マウスの脳内で酸化ストレスが軽減され ていたことから、DHA摂取によるけいれんの抑制には、DHAのエストラジオールを介した抗酸化作用が関わると考えられる。

同研究から、DHAは脳内でエストラジオール合成を活性化することによって、てんかん発作を抑制していることが示唆されたため、てんかん発作予防のための薬物や食事療法の開発に繋がることが期待される。脳内のエストラジオールは、記憶・学習の亢進作用や、神経変性疾患や脳卒中など他の神経疾患との関与も指摘されていることから、ここで示した作用メカニズムは、DHAの他の作用にも適用できる可能性があるということだ。