今回の決算説明会では、黒字化した米スプリントと、一昨年買収した英ARMホールディングスへの言及が非常に大きかった。特に後者は孫社長曰く10年越しの念願が叶ったということで、喜びもひとしおなのだろう。ではなぜARMなのだろうか。

孫社長が「買ってよかった! 」と繰り返すARM

ARMのプロセッサーは、今やスマートフォンの90%以上に搭載されている。2016年の出荷個数は177億個で、1991年の創業から2017年までの累計は1,000億個を達成する見通しだ。さらに今後は、IoT機器にARMチップが採用されることで、2021年に出荷個数が累計2,000億個に達するとみられている。年間の出荷個数も平均で250億個となる計算だ。

IoT時代にはスマートフォンだけでなくクルマや家電などあらゆる分野に低消費電力を武器とするARMプロセッサーが入り込んでくる

また、先日ARMが発表した新アーキテクチャ「ARM DYNAMIQ」は、AI関連の処理が大幅に高速化したもの。AIの世界においてもARMの影響力は増していくだろう。サーバー部門への採用も現れ始めている。そして、この一見関係なさそうな2社(ARMとスプリント)の関係が、ひとつの大きな成果となって現れることが発表された。

ARM DYNAMIQでは現在よりも柔軟なマルチコア設計が可能になるだけでなく、AI向けに高速処理が可能になるなど、大幅な機能強化が図られている

米スプリントは、米国においてLTE/TDD用に2.5GHz帯の帯域を120MHzも割り当てられている (参考までに、NTTドコモの割り当て周波数帯は700MHz~3.5GHzまでの全帯域合計で200MHz、個別の帯域は40MHz前後)。この帯域はいわゆるプラチナバンドと比べると屋内に電波が届きにくいのだが、「HPUE」という技術を適用することで、より長距離まで通信できるようになった。また、大規模なアンテナを立てるのではなく小さな基地局を多数都市内に配置していく必要性があるのだが、こうした小型基地局の運用は、ソフトバンク傘下のウィルコム(現Y!mobile)時代にPHSなどで運用実績やノウハウを積み重ねている。

日本では20MHzを基準(150Mbps)として、複数周波数帯のチャネルボンディングで高速化が図られている。120MHzを丸ごと使えるのであれば技術的にも優位性がある

HPUEはLTEの国際標準技術として認められたばかり。遠距離においての受信性が高まることが期待できる

2.5GHz帯はHPUE込みで将来の5Gサービスにおいても利用されることが決まっており、スプリント(ソフトバンク)はLTEモデムを含んだスマートフォン用チップで大きなシェアを持つQualcommと共同で、世界に先駆けて2019年に、2.5GHZ帯を使った5Gサービスを提供することで同意したのだ。もしスプリントが持つ120MHzをすべて利用できれば、1Gbps級のサービスが実現することになる。

5Gのサービスインは世界的に競争が激しいが、2.5GHz帯を使って、ということであればおそらくスプリントが世界初ということになるだろう

Qualcommは同社のSoCのコアにARMを採用しており、ソフトバンクやスプリントはARMを仲立ちとしてQualcommへの強力な窓口を手に入れることができた。そしてネットワークの質・技術の低さが問題視されていたスプリントが誰よりも早く5Gサービスを提供できるようになったのは、ARMのおかげというわけだ。

上記はほんの一例だが、ARMを手にしたことで得られるシナジー効果はこれほどまでに大きなものになる。孫社長が興奮するのもわかるというものだろう。そして前述したSVFのような大規模ファンドを後ろ盾にしたとき、その効果はさらに高まることになる。金の卵がゴロゴロと生まれ出す「真のゴールドラッシュはこれから到来する」という孫社長の言葉が大きな説得力を持ってくるのではないだろうか。今後の同社の提携や買収先がどうなるのか、数年先を予測しながら注視していきたい。