さて、“なぜワインが親しみやすくなったのか”ということにハナシを戻そう。コンビニなどの販売チャネルが増えたこと、購入しやすい安価な製品が多くなったこと以外に、細かいことだが2点あると思う。

そのひとつが“スクリューキャップ”の普及。購入したワインがコルク栓で、しかもコルクスクリューが手元になかった際は失望感に包まれる。まあ、これはスクリューを購入すれば済むハナシ。こわいのは開栓中にコルクが割け、にっちもさっちもいかなくなった場合だ。そうした際の道具もあるそうだが、もちろん家にはなく徒労感と絶望感に包まれる。しかしスクリューキャップなら、開栓に失敗することはまずない。前出の松尾氏によると「スクリューキャップは製造精度が向上し密閉性が高まった。場合によってはコルクよりもよい」なのだそうだ。

1985年の桔梗ヶ原メルロー(手前)。奥は現在のものでラベルの色使いがポップ

もうひとつがラベル。以前に飲んだワインを選ぼうとしても、“欧文”ばかりのラベルが並んでいると、本当にその製品なのか自信がなくなる。ところが最近は、デフォルメされたイラストを使うなど、個性的でポップなラベルが増えた。こうしたラベルならビジュアル的に認識しやすく、次も同じボトルを選びやすい。

「開栓作業がつたないだけ」「記憶力が悪いだけ」という指摘を受けそうだが、少なくとも筆者にとっては、この2点もワインへの親しみが深まった理由となっている。

人口減少を見据えた長期的な戦略を

最後に、日本でワインが好調とはいえ、手放しでよろこべない問題について。それは、人口減少と高齢化だ。この問題は、ワインに限らず酒類産業全体、いや日本の産業全体に暗い影を落とす。50年後には人口9,000万人を割り、高齢者が約4割を占めるといわれている。国税庁によると、飲酒習慣のある者は、男女ともに30歳代から大幅に増加し、70歳以上では減少する傾向があるという。つまり、単純な人口減による酒類需要低下に加え、高齢化による需要減も重なってくる。

こうした国内需要の見通しからも、メルシャン・代野社長は“海外輸出”と口にしたのかもしれない。ただ、海外に潤沢に商品を提供するには、まだまだ生産能力が追いついていない。加えて、“農園開拓”→“ブドウの収穫”→“醸造”には長い歳月がかかる。50年後といえば、まだまだ先のように思えるが、“時間との闘い”はすでに始まっており、今から海外輸出の準備を進めなくてはならないといえよう。